GPA に代わる成果指標の 開発・活用の課題とは?

(進研アド「Between」 2014年  10-11月号 連載 どうする?説明責任と成果指標 より転載)

ポストセカンダリーアナリティクス 柳浦 猛(やなぎうら たけし)

アメリカの企業は採用時に、GPAを選考の参考要素の一つとしてきた。しかし、より客観性の高い成果指標を、という社会からの要請が高まるにつれ、第三者機関によるテストの開発や、新たな教育システムとしてMOOCsなどの試みがなされている。学習成果のエビデンス化の取り組みと課題について解説する。

GPA は学生の能力を的確に表しているか?

アメリカでは、学生の学習成果を測定する指標として評定平均(以下、GPA)が用いられてきた。学生が就職活動の際、履歴書に記載し、企業側も採用基準として参考にするなど、GPAは学生の能力を示す一つの指標とされている。ところが近年、このGPAに対する信頼が揺らいでいる。雇用者が、GPAと被雇用者の能力が必ずしも合致せず、それだけでは能力を把握できないとわかってきたからだ。

GPAの一番の問題は、絶対評価としての比較ができないことだ。例えばハーバード大学の学生のGPA4.0(全ての科目の成績評価がA)と、ある地方私立大学の学生のGPA4.0が、同じ能力を示すとは限らない。また、同じ大学・学部の出身者でも、GPA4.0の学生と3.0の学生では、仕事をする能力にどこまで違いがあるのか明確ではない。さらに、担当する教員によっても成績評価の基準が異なる場合がある。

このような曖昧な指標に対し、1990年代中ごろから認証評価団体を中心に、「大学は学生の学習成果を客観的に示すべきである」という圧力が高まってきた。特に近年は、学習成果をGPA以外の数値を用いて示すことを要求する評価機関が増え、多くの大学が学習成果を測定する作業に取り組んでいる。

第三者機関が開発した基礎能力全国テスト

アメリカで測定される学習成果は、大きく2つに分けられる。一つは、専攻にかかわらず全ての学生が修得すべき基礎能力の測定、もう一つは専攻別の専門知識の修得状況だ。

前者の基礎能力測定に関して、アメリカには第三者機関が開発した全国的な学力測定テストが複数あり、多くの大学はそのいずれかを利用する(図表1)。これらのテストは、学生が修得すべき基礎力というものを定めて測定する。大学ごとに抽出された学生がテストを受け、その平均点を全国平均と比較する。さらに、自学の入学直後の1年生と卒業間近の4年生のスコアの差を学習成果と定義したり、性別や人種、学部、家庭の収入別に比較することもある。

Between 2014 Oct - Nov Chart1

具体的な試験内容は、テストごとに多少の違いはあるものの、基本的には学生の論理的思考能力や文章作成能力を測定する問題だ。代表的な全国テストCLA(Collegiate Learning Assessment)を例にとってみよう。

CLAでは学生の能力を2つの課題を通して測定する。一つ目の課題では、分析、問題解決、文章作成に関する能力を測る。現実に起こりうる課題を提示し、指定した関連資料を用いて60分以内にその課題をどのように解決するかを論じさせる(図表2)。二つ目の課題では、論理読解・評価、数量分析、批評能力を測定する。学生は、与えられた問題の中から25問を選択して、30分以内に解答しなければならない。

これらの全国テストを大学が実施するには、参加費用に加えて運営コストもかかる。例えばある大学では、受験者には現金50ドルを給付するという特典を付けてテストを実施している。成績に直接関係のないテストを学生に受けさせるための策である。また、サンプルとして抽出された学生の男女比や人種比が、全学の比率を反映したものになるよう、学生抽出も注意が必要である。卒業要件として全員に受験させる大学もあるが、いずれにせよ財政基盤が弱く、スタッフが少ない大学にとっては、テストの実施自体が一苦労だ。

全国テストには参加せず、独自に学習成果測定テストをBetween 2014 Oct - Nov Chart2開発すれば、自学のミッションと直接関係のある能力を測定できるという利点はあるが、大学間比較ができず、開発費用がかかるという難点もある。そのため、基礎能力に対象を絞って独自開発を行うケースはあまり多くはない。

これに対し、学部・学科別の専門知識に関わる学習成果の測定については、独自の測定ツールを用いるケースも少なくない。代表例としては、事前事後試験方式(Pre-/Post-test)や、専攻別の卒業試験、卒業論文を無作為に抽出してその質を複数の教員で判断するといったものが挙げられる。なお、卒業論文の無作為抽出は、哲学・歴史分野にみられる。

事前事後試験方式は、入学時点と卒業間近に、同じ難易度のテストを実施し、スコアの変化を測る。また、卒業試験は理系や経済学のように、修得すべき内容がある程度体系化された分野で用いられる場合が多い。例えばミクロ経済、マクロ経済の総合知識を問う試験で、基準以上の点数を取得することを卒業要件としている大学もある。

以上のような学習成果測定には、その結果とGPAとの相関関係を分析することによって、学習成果をより多面的に捉えられるというメリットがある。これらの取り組みを通して、大学教育の質の改善につながる可能性もある。

 

 

測定しても公表はせず認証評価に活用

学力測定の真の狙いは、どの大学がより大きな学習成果を挙げているかという納税者の根本的な関心に応えることにある。しかし、そのような説明責任システムは、アメリカでは現時点でまだ実現されていない。

というのも、CLAなどの全国テストですら、全ての大学が参加しているわけではないからだ。CLAへの2012−2013年度の参加校は161大学であり、4年制大学全体の1割を下回る。学部・学科レベルで行われている事前事後試験方式や卒業試験も、試験の質を担保するのは学内の教員であるため、完全に客観的とは言いきれない。また、当然ながら大学間比較も行えない。

そして何より、これらの試験の評価結果の公表は大学の自主性に委ねられ、一般公開されない場合が多い。政府も、この分野の情報開示にはあまり積極的ではない。そこには、学習成果を大学間比較ができないまま公表したところであまり社会に利益はない、という判断も働いている。大学としても、学習成果はいまだに認証評価のための内部情報とみなしているところが少なくない。社会からすれば、学習成果はいまだブラックボックス状態にある。

州立大学はウェブで学習成果の情報を公表

大学での学習成果の公表状況を改善するための試みも行われている。例えば、ワシントンD.C.に本拠地を置く2つの全国協会団体は、「自発的説明責任システム」(Voluntary System of Accountability)というプロジェクトを発足させ、州立大学を対象にした「カレッジ・ポートレート」というウェブサイトを開設した。これは、大学の主要データを他大学との比較が可能なわかりやすい形で公開することを目的としている。サイトへの参加は任意であるが、全米州立大学の半分にあたる約300の大学が参加し、毎年データが更新されている。

カレッジ・ポートレートで特筆すべき点は、学習成果のカテゴリーがあることだ。ここでは、各大学の学習成果測定に関する取り組みが紹介され、CLAなどの全国テストに参加している大学は、その結果も公表している。カレッジ・ポートレート内でも学習成果の大学間比較は行われていないが、各大学の学習成果に関する情報が公表されていることは評価できる。

学習成果の透明化をめざすまったく別のアプローチとして最近注目を集めているものに、「コンピテンス基盤教育」(Competency-Based Education)がある。この教育モデルは基本的にオンラインで実施され、授業や学期がなく、GPAもない。大学が企業関係者との話し合いをもとに、企業が必要としているスキルを持つ人材を育成することを目的に専攻ごとのカリキュラムを作り、各スキルのアドバイザーがマンツーマンで学生を指導する。

関連課題や参考資料を与え、最終的にそのスキルを修得したと認定されると、学生は「コンピテンス単位」を修得して次のレベルへ進むことができる。あるスキルを仕事などで既に修得したことを証明できれば、コンピテンス単位として認定され、履修する必要はない。したがって、学生はその専攻分野で必要なスキルや概念を全て修得したことが証明できれば、4年未満で学位を取得することも可能である。

このカリキュラムは、個別のスキル・概念の一つひとつを修得したかどうかに焦点を当てているため、学習成果という観点での修了実績は、少なくとも理論的には、GPAよりも雇用者にとって透明性が高い。認証評価団体もコンピテンス基盤教育を正式なカリキュラムモデルとして認定しており、採用する大学も徐々に増えつつある。

また、最近注目を集めているMOOCsも、従来の高等教育の質への疑問をきっかけとして誕生した教育モデルと位置付けることができる。

MOOCsの理念は単純明快で、「一流の教員の授業の質は当然高く、そこで良い成績を修めた学生であるならば高い能力を持ち合わせているはずである」ということだ。実際にアメリカでは、MOOCsの授業の受講を奨励し、修了者を昇給・昇進させたり、修了者が別の企業からヘッドハンティングされたりというケースも少しずつ出ている。

MOOCsはまだ試運転段階で、今後の展開は不透明であるが、伝統的な高等教育とは異なる学習成果の捉え方として注目を集めている。

教育の質向上も念頭に積極的な取り組みを

日本においても、学習成果を測定し、それを社会に説明することは重要な課題だ。日本には「学士力」という概念があるが、CLAのような第三者機関により、それを客観的に測定できる全国試験を実施することが望ましいのではないだろうか。政府が主導すると大学教育への介入という批判にもなりかねないので、アメリカのように非政府機関が主導し、政府は試験に参加する大学に補助金等のメリットを与えるといった政策誘導にとどめるのが望ましい。

アメリカでは、CLA以外にもさまざまな試験があり、基礎力の測定方法に多様性を与える一方、それが学習成果の大学間比較を複雑にしている。日本で実施するならば、試験を1つに絞るか、複数の試験間で得点の変換による相互比較を行えるようなしくみをつくる工夫が必要だ。

専門知識の測定に関しては、まず、各学部・学科の教育目標を明確にすることが必須だ。そのうえで試験等、目標の達成度合いの測定手法を開発する必要がある。経年比較や学年別比較などによってある程度の客観性を確保できる。

また、教育目標の設定は、その達成のためのプロセスとの整合性を見直す作業を伴わなければ、絵に描いた餅にすぎない。現行のカリキュラムに教育目標と関係のない科目がないか、同じ科目名なのに、担当教員により授業内容や教科書がまったく異なるものはないかを見直し、かつ各科目のシラバスに関連性をもたせる努力も重要になるだろう。

日本の大学の学習成果測定の努力は、緒に就いたばかりである。学習成果の説明責任を果たすことが社会の要請である以上、自学のカリキュラムを見直し、教育の質を向上させる好機と捉えていきたい。