アメリカ大学事情 Vol.5 2013年5月7日 日本の大学進学率が低いことは問題か?

先日、下村文部科学大臣がワシントンDCで講演した際、東大などが秋入学へ移行を検討していることから生じる高校卒業からの空白期間、いわゆるギャップターム、を利用して海外に行く学生には奨学金を給付するという構想を発表した。給付金の奨学金といい(先週の記事参照)、現政権下ではとにかく奨学金の拡充をしていこうという動きが目立っている。ただギャップタームの奨学金も、アイデアとしては面白いが、財源の確保等、実行に移すまでには超えなければならない壁が多そうである。

ところで、せっかくなのでDC近郊に住む私もその講演に聴衆として参加した。個人的に興味を引いたのはギャップタームの奨学金拡充政策よりも、大臣が各国の大学進学率に言及している時であった。下村大臣は、日本の大学進学率は51%であると紹介し、先進国の中ではかなり低く、日本の大学進学率を上げて行かなければならない一方で、定員割れの大学が40%を数え、日本は一つのジレンマを抱えているということを述べていた。

このデータを耳にした時、何か腑に落ちないものがあった。確かに、OECDが毎年発表する国際教育白書とも言えるEducation at a Glanceによれば(おそらく下村大臣はここからデータを引用されていたと予想される)、OECDの平均は62%であり、日本の大学進学率よりも11%ポイント高い。一番高いのはオーストラリアの96%であり、アメリカの大学進学率は74%である。またアジアに目を向ければ、隣の韓国では71%である。(表1)

表1:高等教育進学率比較(タイプA機関)2010年

OECD College Going Rate 2010

出所:OECD Education at a Glance 2012. Table C3.1. Entry Rates into Tertiary Education and Age Distribution of New Entrants (2010) より作成

しかし、一方で日本の25-34歳人口における学位保持者(2年以上の学位)の割合は、57%であり、韓国についで世界第2位であり、OECD平均の38%を大きく上回る。大学進学率が低いのになぜこのようなことが可能なのか?


表2:25-34歳人口に占める学位保持者(2年以上)の割合 2010年

OECD EdAttain Rate 2010

出所:OECD Education at a Glance 2012. Table A1.3a. Population that has attained tertiary education (2010) より作成

結論から言うと、「大学」進学率としてではなく、「高等教育」全体の進学率で比較すると、日本の進学率は世界的に決して低くはない。少なくとも、アメリカと比較しても低くはないし、実はオーストラリアと比較しても、一般的に信じられているほどの差はない。

OECDは高等教育機関を2つのタイプAとBにわけ、学士号を授与する大学をタイプA、それ以外の機関、短大や職業訓練を目的とした専修学校を高等教育タイプBに分類している。

OECDによれば、日本の51%は、タイプAの進学率を指し、4年制大学への進学率を意味する。ちなみにタイプB(大学以外の高等教育機関)の日本の進学率は27%である。一方、アメリカの「進学率」はタイプAとタイプBを分けてはいない。タイプAの中にタイプBも含めて、それを進学率とし、74%としている。アメリカの場合は、4年制大学であってもその中に准学士を授与する大学もあるので、OECDが要求しているようにタイプAとBにはっきりと立て分けることができないことがその理由だと考えられる。

日米の大学進学率が同じ土俵で比較されていないことはここから明らかである。日本のタイプAとタイプBを合計した高等教育進学率は78%(51%+27%)であり、アメリカの74%を上回ることになる。

日本:
高等教育機関タイプA(大学)への進学率 51%
高等教育機関タイプB(それ以外)への進学率 27%
高等教育AおよびBへの進学率 78%(推定)

アメリカ:
高等教育機関タイプA(大学)への進学率 74% (タイプBの進学率も含む)
高等教育機関タイプB(それ以外)への進学率 空欄
高等教育機関タイプAおよびBへの進学率 74%

もっともOECDは、単純にタイプAとタイプBの進学率を足すことはできないと警告している。タイプA及びタイプBの両方の機関に同時に集計されている学生も大勢存在する可能性があるからである。しかし、その警告は日本にはおそらく当てはまらない。これは自分の推測にしか過ぎないが、日本においては、専門学校から大学へ進学する学生数は少数であるだろうし、また短大から大学に編入する場合は1年生としてではなく、大体が3年生からである(従ってOECDの新入生としてはカウントされない(1))。そして4年制大学への編入自体も日本では活発には行われていない。以上のことから考えると、日本の高等教育全体への進学率は78%か、もしくはそれを若干下回るレベルにあると推測される。つまり日本では若者の大体10人中8人が高等教育に参加しているということである。

次に、オーストラリアに関して、オーストラリアのタイプA機関への進学率は96%で、世界一である。しかし、オーストラリアは全体の学生に占める留学生の比率が21.8%にのぼるため(2)、オーストラリアの大学進学率は必ずしもオーストラリア出身の学生の進学率を示しているわけではない。OECDは留学生数を除外した進学率も発表しているが、その場合オーストラリアのその値は67%にまで下がる(3)。さらに25歳までの進学率は51%にまで下がり(4)、ほぼ日本と同じレベルになる(5)。一方、オーストラリアのタイプBの進学率はOECDには報告されていないため、高等教育全体の進学率を予測することは不可能だが、日本の78%はおそらくオーストラリアの高等教育進学率と比較しても低すぎる値とは思えない。

もっとも、日本の大学への進学率(高等教育進学率ではなく)が世界でトップレベルではないことは事実である。それでは、日本は大学に通う学生をもっと増やしていくべきなのであろうか?

当然大学進学率が高ければそれに越したことはない。しかし、国によって労働市場の需要は異なり、どのようなスキルを持った労働者が要求されているのかは、特に短期的には、多少異なってくる。国によっては大学卒業者が最も必要とされている場合もあれば、専門学校で職業訓練を受けた人材の輩出が急務の国もある。中央政府の役割とは、その国の労働市場の人材需要を理解し、それに適した高等教育システムを構築することである。日本の高等教育参加率は他国と比べて決して低くはない。そして日本は高等教育の約3割を短大、高専、もしくは専門学校等に担っているというシステムを(意図的でないにはせよ)採用している。このシステムが好ましいのか、そして高等教育全体から見てどこの部門に今後日本は力を注いでいくべきなのか、他国との比較だけでなく、国内の労働市場の需要と照らしあわせた上で総合的に判断する必要がある。

例えばアメリカの場合、国としてはコミュニティカレッジ及び専門学校の卒業生を増やしていくという方向で政策が進行中である。現時点でアメリカではコミュニティカレッジや専門学校の需要が増大しているため、国の高等教育政策はその需要に対応している結果といえる。アメリカはその国民性もあって、国際比較にあまり関心を払わない国柄であるというのもあるが、他の国と比較してではなく、労働市場の今後の動向にあわせて高等教育の政策の方向性を決めているというアプローチは参考にすべきだと思う。

現在の日本では、大学の約4割が定員割れを起こしている。大学に学生をまだ受け入れる余地があるのにも関わらず学生が来ないということは、現時点で日本の大学の市場、特に私立大学、は過剰供給状態にあるということである。そのような中、他の国よりも大学進学率が低いからという理由のみで、大学進学率を上げなければならないという政策を推進することに果たして意味があるのか疑問符がつく。ましてやその学生の送り先の多くが、国公立大学になるならばわからなくもないが、現在定員割れしている私立大学となるならばさらに首をかしげざるを得ない。

大学への進学率を上げること自体に反対ではないが、進学率を上げるためには、受け入れる大学システム側が社会の労働需要に対応しているという前提条件が成立していなければならない。現時点の日本の大学システムはその前提条件がおそらく成立してはいない。定員割れしている大学が数多くあり、大学へ進学するより専門学校へ進む方が得策と考えている学生が少なくないということがその証拠である。大学進学率を上げるならば、特に定員割れしている大学に対して、政府は何らかの形でビジネスモデルの転換を促すような政策が必要なのであろう。

注:

1.OECDの大学進学率は、一年生(留年生を除く)を年齢別に集計し、その数を各年令の人口総数で割り、それぞれの割合を合計した数値を進学率と定義している。

2.出所:OECD Education at a Glance 2012: Table C4.1. student mobility and foreign students in tertiary education (2005, 2010)

3.出所:OECD Education at a Glance 2012: table C3.1. Entry rates into tertiary education and age distribution of new entrants (2010)
4.出所:OECD Education at a Glance 2012: table C3.2. Entry rates into tertiary education below the typical age of entry (2010)
5.日本は25歳までの大学進学率をOECDに報告していないが、80%の大学1年生が19歳以下であることから、年齢制限無しの大学進学率である51%からあまり変化はないと予想される。