アメリカの Institutional Research:IR とはなにか?

(2009年 国立大学財務・経営センター 『国立大学財務・経営センター研究. 報告』第11号,国立大学財務・経営センター,220-253頁 より転載)

柳浦 猛

1. はじめに

「大学全入時代」、「大学淘汰」という言葉が聞かれるようになって久しく時間が流れた。若年層人口の低下は、大学間の競争の激化をもたらし、閉鎖・縮小を余儀なくされた大学、もしくは大学の合併など、前世紀には想像もされなかった変革が過去数年で起こり始めている。そのような状況下において、各大学は生き残りをかけて新しい学部の設立、学生サービスの充実、新たな財源の確保等などに代表される様々な改革に取り組み始めた。その一連の改革の中で、日本の大学関係者の注目を集め始めている言葉に Institutional Research(以下 IR)という言葉がある。IR は、簡単に言えば、企業でいうところの情報戦略室であり、大学の運営に役立つ情報を提供する役割を担う機能であり、アメリカやカナダではほとんど全ての大学に設置されている部署である。日本では、まだ IR はほとんど普及されていないが、いくつかの大学ではIR もしくはそれに似た機能が設置され始めており、今後さらにその普及の速度が速まっていくことは必然的な流れといえる。

その流れを鑑みた時、ここで必要な議論は、日本において必要とされる IR とはいったい何なのか、という定義を確立することである。アメリカやその他の国で効果的であるからといって、そのシステムを日本にそのまま持ってきても成功するとは限らない、というのは多くの大学関係者の納得することであろう。しかしその一方で、国や文化が違うから IR が日本には根付かないという意見も説得力に欠ける。私自身、アメリカで IR としてキャリアを積んできて、IR の有用性を痛切に感じており、実際 IR なしでどのように大学が運営されているのか想像し難い。IR は正しく扱えば日本の大学でも機能するというのが私の持論である。故に大事なことは、IRの本質をつかむという分析作業であり、その本質的なものを保ちつつ各大学の現実に活かしていくという応用作業である。特に IR が普及する初期段階にある現在の日本において大事なステップは前者の「IR の本質とは何か」を明らかにすることである。このステップを踏まなければ、IR というハコモノだけが日本に移植され、数年後に IR はやはり役に立たない、日本には必要がない機能という烙印を押される可能性も否定できない。故にこのエッセイでは、「IR の本質」を明らかにするための議論に貢献することをその目的としている。

ここで私の経験に関して簡単に述べておきたい。私の高等教育業界におけるキャリアは、おそらくこのエッセイを読まれるほとんどの読者の方よりも短いと思う。まず、最初のステップとして、2003 年から 2005 年まで約2年間ミネソタ州にあるコミュニティカレッジで IR のインターンとして勤務した。ほぼ同時期に、Midwestern Higher Education Compact1で大学院生助手(graduate assistant)として勤務し、その後、コロラド州にある State Higher Education
Executive Officers(SHEEO)2で Data Analyst として2年間勤務した後、現在の職場であるTennessee Higher Education Commission (THEC)3の IR 部門で Research Director として勤務し現在に至る。どの職場においても私の役割は IR としてカテゴライズされてきたのだが、これは IR というものの本質を理解するうえで非常に意義あるステップであった。というのもこの4つの組織は大学、政府系シンクタンク、全国協会、州政府であり、同じ高等教育に関する機関であったとしても組織の文化、ミッション、運営方法などが大きく異なる。したがって IR の機能の仕方が各組織において自然と異なっている。しかし、本質的な部分での役割、すなわち、組織がミッションを達成するための研究を行うということにおいては、どの組織であっても共通した IR の役割であり、それを身をもって実感することができたのは貴重な経験だった。

そういう意味で「IR とは何か」という本質的な部分での話をする上で自身の経験は不足しているとは思わないが、しかし本稿は、「大学キャンパスにおける IR」という応用的なテーマなので、そうなるとテーマと直接関係のある私の経験はコミュニティカレッジでのインターンとしての2年間に限られてくる。しかもそこではフルタイム(正規の職員)ではなく、私はパートタイム(週 20 時間労働者)の IR だった。従って、私自身がアメリカの大学における IR に関して語る上での自分の経験が不足しているかもしれない。故にこのエッセイに取り組むに当たって、私は自分の経験以外に、2つの情報源をその参考とした。ひとつは IR に関する文献、そしてもう一つは私が今まで出会ってきた IR の同僚たちから得た情報である。この二つの情報源を有効活用することで、自分の限られた経験値を補えればと思っている。尚、本稿では以下の内容に関して述べていく予定である。

1. IR の定義
2. 組織における IR の位置づけ
3. IR の規模
4. IR の業務
5. IR に必要なスキル
6. 私の体験:どのようにして私は IR の世界に入っていったか
7. アメリカにおける今後の IR の展開
8. 提言―私が思うこと

そして、最後に断っておきたいのは、これは実際に IR の仕事に携わる者の立場から、IR の仕事に取り組む人たち、もしくは IR を設置しようと考えている大学関係者を想定して書かれたエッセイであるということであり、学術論文ではないということである。従って、文章のフォーマットは、学術論文のそれとは大いに異なり、個人的な意見も多く含まれている。読者の中には納得いかないことや、それは違うと思われるような内容も含まれているかもしれない。し
かしこのエッセイは、語弊を恐れずに言うならば、そもそも IR の真実を明かすということを目的としているわけではない。先述したように、このエッセイの目的は、IR とは何かという真実を明らかにするための一視点を提供することである。故に、このエッセイが今後の日本版 IRに関する議論の糧になっていくこと、それが達成されれば筆者にとって望外の喜びである。

1-1 IR の定義

私が昨夏(2008 年)日本に帰国したときの話だが、ある大学関係者の方と IR の話題になり、どうすれば IR が日本に普及するのかという話になった。その方の意見は、Institutional Research の本質を的確にあらわした日本語訳が行われなければ、IR は日本には普及しないということであった。IR と聞いてもそのイメージが分かる人は少数であり、そうすると IR という言葉だけが先行して、多くの大学でアメリカを参考に導入されたが本質は全く異なったものになっている AO 入試みたいなことになる、というような意見であった。AO 入試云々は本稿の焦点ではないのでここではこれ以上触れないが、それは確かにそうであると思った。やはり言葉が持つイメージというのは重要な役割であり、IR にもいずれ的確な日本語訳がなされなければならない。そういった意味で、IR の定義は何か、ということをここでまず考えるのは無駄な話ではないと考える。

実際のところ、アメリカにおいてもIRの定義に関しては様々な意見が存在している4,5。例えば、IRの全国協会であるAssociation for Institutional Research(以下AIR)は、IRを“(組織としての)大学の理解、戦略、運営の改善につながる研究(research leading to improved understanding, planning and operating of institutions of postsecondary education)”と一応定義しているが、それが必ずしもIRの現状を示しきっているとは言い難い6。それはひとえに、IRの役割が組織によって大いに変わるという背景がある。ここでは、様々な定義の中から、Volkwein(1999)7の言葉を紹介したい。Volkwein は、IRを言葉で定義する代わりに、IRには通常以下の4つの役割があると述べている。

• 情報に関する責任者としての IR(”IR as Information Authority”)
• 政策分析者としての IR(”IR as Policy Analyst”)
• スピンドクター8としての IR(”IR as Spin Doctor”)
• 研究者としての IR(”IR as Scholar and Researcher”)

この役割は、個人的な経験に照らし合わせても、IR の役割を的確に表している。まず最初の情報に関する責任者という点において、IR というのは様々な方面から頻繁にデータ要求を受ける。データの要求者は時には首脳陣であり、メディアであり、他の部署のスタッフ、もしくは教員など様々であるが、これは大学データに関する質問は IR に聞けばいいという文化がアメリカの大学に出来上がっているからと言える。従って、例えば日本ではメディアがランキングや卒業率調査などのために大学にデータ開示を求めるが、その担当者がアメリカでは IR になる。すなわち、IR から発表されるデータは大学の公式データであるという認識がアメリカでは出来上がっている。

次の政策分析者という点に関して、IR は頻繁に組織状況の分析や政策の分析を行う。そしてその結果を首脳陣に報告することによって、首脳陣は自分たちの組織に関する新たな情報をつかみ、意思決定する上でより多角的な視点に立つことが可能となる。Volkwein は、その役割を端的に、「首脳陣の教育( educate the management team)」9と定義している。この役割は前述した AIR の定義とほぼ同義である。

3番目の役割であるスピンドクターとは、一般的に情報を操って集団の心理をコントロールする専門家のことを指し、アメリカの選挙キャンペーンなどで活躍する専門家のことだが、IRもそのような役割があると Volkwein は述べている。これは別の言葉で言えば、データの解釈を時と場合に応じて使い分けるということを示している。それはどういうことかというと、アメリカでよく使われる表現に「コップには水が半分しかないと見るかコップには半分も水があると見るか」という言葉があるが、すなわち、同じ事象であっても、解釈によって表現方法が大きく変わるということをこの言葉は意味している。例えば、卒業率が50%の大学があったとして、一般的には「半分しか卒業できていない」という見方があるのに対し、見方によっては「半分も卒業できている」と捉えることも可能であるということである。学者というのは発言の制約がないので組織の都合に関係なく意見を表現できるという特権があるが、IR はやはり組
織に雇われた従業員であるが故の制約があり、学者ほど発言の自由が約束されていないというのは自分の経験から見ても当てはまる。従って上記の卒業率の例を用いれば、50%の卒業率が低すぎると心の中では思っていたとしても IR はそう表現をすることが許されないというケースは少なからずある。しかし、その一方で完全に組織のイエスマンになってしまっては IRの存在意義はない。やはり IR として重要な関心事は組織の発展であり、そのために真実を追究していくという作業は怠るべきではない。その作業が4番目に述べられた研究者としての IRであるといえる。いわばこのスピンドクターとしての IR と研究者としての IR の両方の側面を抱えながら同時に進んでいく、それが IR であると私は考える。

ここまで IR の定義を考える中で、その役割という視点から IR を見てきたが、私は IR というものを日本語で一言で言うならば、大学情報戦略室というのが一番近い訳なのではないかと思う。もっとも私はこの訳に固執するつもりはないが、IR に関する議論が今後進むうちに的確な日本語訳が出てきてくることを期待する。

1-2 組織における IR の位置づけ

IR を誰の管轄下におくべきかということも、日本の大学関係者の間でよく聞かれる質問である。しかしこれに関しても、アメリカでは IR の定義同様、定まっていない。例えば、私の働いていたミネソタ州のコミュニティカレッジでは教務部門担当副学長に IR は全ての報告を行っていた。しかし、大学によっては学長直結の IR もあったり、財務部門担当副学長の管轄下にあったりというケースもあるが、一般的に大学の首脳陣の誰かに対して強いパイプを持つように配置されているのが現在の IR の位置づけのように思う。ちなみに現在の私の職場においては、これは州政府ではあるが、IR は President の管轄にあり、IR のトップは大学で言うところの副学長のポジションを与えられている。
Muffo(1999)10は、過去に行われた IR の組織における位置づけに関する調査を整理し、その一覧を論文の中でまとめているが、それによれば、1997 年時点で、アメリカ、ニューイングランド地域にある大学では、34%が学長の直接管轄下、38%が教務担当の副学長に報告を行っている。さらに 1995 年時点のアメリカ南部でも似たような傾向が見られ、24%が学長、34%が教務担当の副学長に報告していることが分かっている。もっとも、データが 90 年代中ごろと多少古いので、それから変化していることも考えられるが、私の個人的な意見として、あまり変化はしていないのではないかと思う。

1-3 IR の規模

先に紹介した Muffo(1999)の論文は、IR の部署のサイズに関しても言及している。それによれば、ニューイングランド地域の大学の IR の平均スタッフ数は 1997 年時点で1人、南部の大学は4.5人とばらつきが見られる。ちなみに、私の経験や他の同僚の話などから考えてみると、多くの小規模大学は1人か2人がほとんどであり、大学の規模が大きくなるに連れて IRのスタッフ人員も比例しているような印象を受ける。ちなみにミネソタの私が勤務していたコミュニティカレッジ(学生数約8千人)はフルタイムの IR が 2 人、現在の職場では7人である。 話が多少それるが、これに関連して、かつて何回か「IR は何人必要か?」という質問を日本の大学関係者から受けたことがある。この質問の背景を理解しないわけではないが、IR が何人必要なのかと問う以前に、まずなぜ IR が必要なのかという問いかけがまずなされなければならない。なぜならその問いに対する答えによって、IR の必要人数も変わってくるし、また自然と何人 IR が必要かが分かってくるからである。この論理は IR を誰の担当下におくべきかという議論にも当てはまるといえる。IR がなぜ必要なのか、どのような役割を組織内で求められるのか、その答えは大学によって大きく異なってくるが故に、各大学の首脳陣は IR というものを設置する際には、これらの「IR がなぜ必要なのか」そして「どのような役割を組織内で求められるのか」という問いかけに対して確固たる答えというものを持っておかなければならない。

1-4 IR の業務

これより以下、具体的に IR はどのような業務を行うのかということを考察していく。IR の業務には、様々な業務が存在し、組織によって業務内容も大きく異なる11。Volkwein(2008)12は最も一般的な IR の業務内容として、以下の4つをあげている。

1. 外部及び内部に対する報告業務 (External and Internal Reporting)
2. 戦略策定及び研究プロジェクト(Planning and Special Projects)
3. データ管理及びテクニカル・サポート(Data Management and Technical Support)
4. 研究開発(Research & Development)

最初の報告業務は、政府やメディアに対する外部へのデータ提供、そして大学で定められた年次報告書(例:ファクトブックなど)が含まれる。二つ目の戦略策定及び研究プロジェクトは、大学の運営・戦略に直接関連してくる研究、例えば将来の収入予測や学生数予測などがこのカテゴリーには含まれる。その次のデータ管理及びテクニカル・サポートに関しては、Volkwein は詳しくその論文の中で言及していないが、おそらく IT スタッフとの係わり合いの
中で必要となってくる仕事内容を指していると推測される。最後の研究開発は、2と内容は似ているのだが、Volkwein が例としてあげている活動内容から判断すると間接的に大学の運営に影響する研究と解釈することができる。
とこのように述べたとしても、このエッセイを読んでいる方からすれば一体どういうことなのかあまりイメージがわかないのではないかと思う。確かに Volkwein の視点は IR の業務内容を的確に表していると思うし、IR を知っている人が見ればイメージがつきやすいが、IR を全く知らない人が見たらあまりイメージがわかないのでないかという印象を私は持った。従って、ここで私が思う IR 業務内容を紹介していきたい。Volkwein は IR の業務内容を機能別に分けてグループ化したが、私は仕事の流れを述べていく方が、イメージがよりつきやすいのではないかと思ったので、IR の仕事を業務のサイクルという枠組みで捉え直してみた。

IR の仕事は以下のサイクルに集約される。すなわち、データを集め、分析・研究し、文書にまとめ、首脳陣に提言を行い、そしてその提言を実行に移す。私の経験からみて、これが IRの作業の簡単なサイクルである。(図 12-1 参照)そして、IRの日常業務はこのデータ収集、分析、提言、政策実行のフィードバックシステムをいかに効率化し、スピードアップしていくか、これに尽きるといえる。以下、一つ一つの IR の業務に関して、自身の体験を交えて述べていきたい。

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1-4-1 データ収集

データ収集と一言で言ってもその定義は一定ではない。またデータの種類によってもその収集方法は異なってくる。具体的には、データの種類は以下のものに分類される。

• 学生データ
• 科目データ
• 管理データ
• 財務データ
• その他

学生データとは、いわゆる個人情報である。例えば、性別、生年月日、住所、学部、履修科目、成績といったようなものである。入試関連のデータもここに含まれる。科目データは、教員名、科目名、などといったデータ、管理データは、大学の運営上集めなければならないデータであり、給料等といった従業員の個人情報、土地建造物に関する情報などが含まれる。財務データは、大学の財務に関するデータである。そしてこれらの4つに分類されないデータがある。それはアンケート調査や、特殊な目的のため、例えば自己評価のために集められたデータ等であり、学生満足度調査や教授に対するアンケート、受講者アンケート、卒業生調査等などがこのカテゴリーに含まれる。アメリカではほとんどの大学で、学生データ、科目データ、管理データ、そして財務データは自動的に収集されるシステムが出来上がっているのではないかと思われる。思われる、というのは、実際に何%の大学がそういうシステムを持っているのかということを表した統計がない(もしくは知らない)というのが理由の一つと、その一方でそのようなシステムがないという大学関係者にあったこともなければ聞いたこともないという極めて主観的な理由から、思われる、という多少含みを持たせる言い方にした。

具体的な例として私が IR インターンとして勤務したコミュニティカレッジのケースを紹介したい。ミネソタ州には二つの大学システムがある。ひとつは University of Minnesota というシステムで、このシステムには5つのキャンパスが含まれる。もうひとつのシステムが、Minnesota State Colleges & Universities (MnSCU)であり、7つの4年制大学と、25のコミュニティカレッジが含まれる。私の勤務していたコミュニティカレッジは、この MnSCU に所属していた。

私がこのコミュニティカレッジで働いていた当時、Integrated Statewide Records System(ISRS)というデータベースシステムを MnSCU がデータシステムとして持っていた。(数年前の話なので、今もまだ MnSCUが ISRSを使い続けているかどうかは知らないが。)この ISRSは、MnSCU管轄にある32大学の全てのデータを日々中央に集めていた。例えば、ある学生が履修科目を登録したとする。コース履修はオンラインで行われることが義務付けられているため、コース履修はインターネット上で行われる。その情報は、ISRS に瞬時に送られる。また、例えばアドミッションオフィスが出願書類を受け取ったとする。受験書類担当者が受験者の情報を入力すると、その情報は ISRS に保存される、といったように、ISRS はデータ収集のプロセスを簡易化することをその一つの目的とし、自動的に大学の全てのデータが入力と同時に中央に集まり、日々最新のデータが自動的に更新されるというシステムである。

Institutional Researcher としての私の仕事は、この ISRS にアクセスして必要なデータを取り寄せるということであった。この ISRS には誰しもがアクセスできるわけではなく、誰に許可を取ったかまでは覚えていないが、許可を申請しなければならなかった。また、アクセスできるデータも制限があり、私がアクセスできたデータは学生データ、科目データに限られていた。私の上司である Director は、ほぼ全てのデータにアクセスできていた。もっとも、これは
自分たちの大学に関するデータのみであり、他の大学のデータへは当然アクセスはできないようになっていた。

日本の高等教育関係者の方たちと IR の話をするときに、よくこのデータ収集の話が出てくるが、その度に、データ収集に関する IR の役割に対して、日米のニュアンスの違いを感じる。アメリカにおいては IR におけるデータ収集という言葉は Data Collection というよりも、Data Retrieving、すなわちデータにアクセスするという意味合いで使われる。すなわち、上記のMnSCU の例で言えば、ISRS がデータを集めるのが Data Collection にあたり、私が ISRS にアクセスして必要なデータを手に入れるのが Data Retrieving である。

これは個人的な意見であるが、アンケート調査を除き、データ収集(Data Collection)はIR の仕事ではない。日本でよく聞く話は、学部の壁が強く、データを学部の外に出さないという文化があり、IR はまずそういった学部の人たちと話をしてデータをひとつひとつ集める努力をしなければならない、ということであるが、そういう人たちからデータを集めるというのはIR の本来の仕事ではない。それは IT の仕事であり、IT がまず中央にデータを集めるシステム
を作る必要がある。また IR の専門知識ではそういったデータ収集自動システムを作ることは不可能である。IR のデータ収集の役割は、IT がどのようなデータベースを構築すべきかに関して、IR の観点からフィードバックを与えるくらいである。日本の大学にはまだ、そういったデータ収集システムがないところがほとんどであるという印象を持っているが、そういった大学は、まずデータ収集システムの構築を急ぐべきである。それなしに IR を設置したところで、IR が本来の役割を果たしていくことは不可能に近いといえる。

しかし、多少問題の次元は異なるが、似たような課題を抱えていている大学はアメリカにも少なからず存在する13。例えば、人事に関するデータベースと学生に関するデータは別のシステムといったように、機能・目的別に応じて複数のデータベースシステムが存在しているケースは未だよく聞かれる話である。データシステムが複数存在している、それ自体が根本的な問題ではないが、一番の問題は、それらのデータベースが全くリンクされていないことである。近年、Banner, Datatel, Oracle, PeopleSoft, and Sybase などがより高度なリレーショナルデータベースシステムを開発し、大学はそれらのシステムを利用することによって、キャンパス内に乱立しているデータベースを統合し、データの集権化が図られてきているが、大学経営に役立つデータシステムの構築は未だに多くの大学が格闘している課題の一つである 13。また、そのようなデータシステムが構築されたとしても、データに関する法整備が追いついていなかったりと、大学にそのシステムを使いこなすだけのキャパシティが欠けている場合がある。これに関してどう対処をしていけばよいか、興味のある方は Levy(2008)13の論文に比較的詳しくその対処法が書かれているのでそれを読まれることを薦める。

1-4-2 分析作業

分析作業こそ IR の本領である。しかしそうはいってもその内容は多岐に渡る。一般的に IRの分析作業は大きく2つのカテゴリー、すなわち報告・リポート(Report)と研究(Research)に分けられる。そして研究は、大学の戦略・運営と直接関係のある研究と間接的な関係をもつ研究に分けられ、そして私は更にそれにコンサルティングを加えた。コンサルティング業務に関しては後述するが、一言で言えば首脳陣以外の大学関係者、すなわち大学の学部・学科・部署などの運営をサポートする業務のことである。以下の図 12-2 にその一覧をまとめてみた。私の意見は後者の研究活動こそが IR の本領を発揮すべき分野であり、いかにここに IR がその労働力を投入できるか、ここで IR の良し悪しが決まってくるといっても過言ではない。ともあれ、ここでは、この2つの業務に関して、具体例を出しつつ述べていきたい。

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1-4-2-A リポート業務

リポート業務は大きく二つに分けられる。一つは内部向けリポート、そしてもう一つは外部に対する情報公開業務である。内部とは、各大学で定められた年次報告書などの文書を指し、情報公開業務とは、政府に対する報告業務、メディアに対してデータ提供などが含まれる。アメリカのパブリック大学では内部・外部リポート両方とも公的情報のため、開示を求められたら内部向け情報であっても情報を公開しなければならない。私立大学は、基本的に情報公開の義務はない(これに関しては後述する)。

内部向けリポート

内部向けリポートに関して、当然のことながら大学には様々な資料・報告書が存在する。これらの文書には大抵期限が決められていて、毎年ある時期までに作成されることが決められている。例えば、大学の基本的な情報を網羅したファクト・ブックなどがその例である。また、報告は年単位とは限らない。毎月行う報告もあれば、毎日行う場合もある。例えば、私の勤務していたミネソタ州のコミュニティカレッジでは、学期が始まる40日前から、来学期の学生
履修状況の推移を、過去数年間のデータと比較して、IR が学長はじめ首脳陣に毎朝報告していた。

以下、具体例としてどのようなリポートが存在するか、いくつかを紹介したい。当然ながらこれらは無数に存在する IR のリポート業務の氷山の一角に過ぎない。リポートはもっと多岐にわたっているし、大学によって内容や名称も大きく変わる。従って全てを網羅すること自体がそもそも無理な試みである。しかし、これらはおそらくほとんどの大学が行っている基本的なリポートだと考えられ、ここで紹介することは IR 業務の一端が多少なりとも見えてくると思うの
で無駄なことではないだろう。

Enrollment Report and Projection

学生在籍者数に関するリポート。過去数年における学生数の推移を様々な角度から分析する。通常、アメリカにおいて Enrollment Report は大きく2つの角度から分析される。一つは学生人数(Headcount)であり、もう一つは履修単位数を基に算出される Full-time Equivalent(FTE)である。アメリカ教育省は、1FTE を、年間30単位と定めている(ただしセメスター制の場合に限る。クォーター制の場合年45単位)。ただ大学によっては異なるフォーミュラを用いてFTE を換算しているところもある。FTE を用いる背景としては、アメリカの多くの大学は、予算を決める際、学生人数ではなく、FTE 総数に基づいて予算配分を決めるということが挙げられる。個人的にも FTE を用いた方が、より正確な教育状況が把握されるというのは間違いではないといえる。

この FTE に関しては、日本でも導入されるべきコンセプトであると思う。日本においては、学生のほとんどがフルタイムだから FTE はあまり必要ないという意見もあるが、大学4年生などは就職活動でほとんど授業を履修していない学生などが大半であり、「大学在籍者数」イコール「大学で教育を受けている学生の数」となっていないのが現状ではないだろうか。財政状況がますます厳しくなる昨今、より効果的な大学運営を行うためには、教育状況を正確に把握する必要があり、そのためにも FTE の活用は有用だと私は考える。

Retention Report

日本と違い、アメリカにおいては Retention Rate (歩留まり率)というのは政策関係者の間で非常に大きな関心を集めている。それはひとえに、日本と違い、アメリカでは多くの学生が途中で大学を去ってしまうという現状があるからである。例えば、私の働いていたミネソタ州のコミュニティカレッジでは秋に入学した学生の半数が次の学期には戻ってこないという大学であった。テネシー州では、一年後に戻ってくる学生の率は4年制の州立大学で 81.5%、コミ
ュニティカレッジでは 56.7%である(2007 年度入学者)。もちろんアメリカのコミュニティカレッジは、様々な学生が在籍しており、ある特定の授業の履修が目的だったり、パートタイムの学生として働きながら10年くらいかけて学位を取得するといったような学生が少数ではない。ゆえに大学の手の届かないところでのレベルの問題がこの Retention には少なからず影響しているが、現状ではこの Retention Rateは、大学の業績を表している数少ない指標の一つであり、全く大学の責任が無いというのもまた極論である。

日本では、歩留まり率低い=出口管理が厳しい=教育の質が高い、といったような見方が少なからず存在するようだが14,15、アメリカではそういう見方にはならない。むしろ歩留まり率低い=学生へのサポートが不十分=大学の質が低い、という意見が一般的である16。また、州立の大学、コミュニティカレッジは、納税者から多額のサポートを受けている。ほとんどの州では、その額は、年度始めの学生者数を元に算出されている。従って、例えばそのうち50%が退学してしまったとする。政府は学生が最終的に学位を保持できるようにするためにサポートしているのであって、科目を取れるようにするためだけにサポートしているのではない。そうすると、政府の観点からすれば、全投資の 50%が失敗に終わっているということであり、歩留まり率を上げることは投資という観点から見て必要である。故に歩留まり率・Retention Rate というのは非常に政策関係者の間で高い関心を集めているのだが、このリポートは、一体どのような学生が途中退学をしやすいのかという傾向を知る上で有効である。

Graduation and Completion Report

卒業率というのは、アメリカ高等教育界で最も重要視されている指標といっても過言ではない。先述した Retention rate と同様、大学の業績を客観的に表す指標として重視されている指標である。州や国の政策レベルでは、4年制の大学であれば6年以内に卒業する学生の割合、2年制の大学・コミュニティカレッジであれば3年以内に卒業する学生の割合が最も重要視されている数値である。もっとも最近の流れとしては、この Graduation Rate のほかに、Time to Degree というコンセプトが広まり始めている。これは卒業までにかかった時間という意味で、毎年卒業する学生の取得単位数、卒業までに要した年数などを様々な角度から分析した指標で、近年大学の業績を図る上で重要な指標のひとつとして認識され始めている。

Faculty and Staff Salary Analysis

これは、教員および職員の給与体系・および労働状況を分析することである。目的の一つとして、性別、年齢その他能力とは関係の無い個人的な理由で差別が起きていないか、というような公平さを調べたり、学部間格差を調査したりすることである。また、大学によっては、他大学との共同調査を行っているところもある。そうすることによって、自分の大学の給与レベルが他の大学と比べてどの位置にあるのかを知ることができる。また、教員の生産性もこれらの分析からある程度浮き彫りになってくる。そしてこれらの分析結果等は教員を採用する際にも頻繁に使用される。この給与に関する分析に関してさらに興味のある方は、New Directions for Institutional Research 第 115 号(2002 年秋)と 117 号(2003 年春)を参照されることを薦める。そこには、アメリカの大学がどのような分析手法を用いて給与分析が行われているかに関しての特集が組まれている。

Course Saturation Report

これは、私が勤務していたコミュニティカレッジで行われていたリポートだが、要するに、大学が提供するすべての授業の履修状況を表すデータである。すなわち、全ての授業には定員があり、その定員数に対して実際何%の履修者がいるのか、ということを示すリポートである。これは大学が、必要な授業、不必要な授業を分別する上で有用なリポートである。特に、私の所属していたコミュニティカレッジでは、教養科目以外に、職業専門コースも提供していたので、この分野の授業は入れ替わりが激しかったことを記憶している。職業専門コースは通常地域の雇用と密接に関連しているので、雇用に対する需要が減ればその授業を履修する学生数は激減し、需要が増えれば学生が殺到するというような状況であった。従って、数年前まで学生が殺到していた授業がその後空席が目立つようになり、後に授業自体が縮小・閉鎖されるというパターンも少なからず存在していた。

外部向けリポート:情報公開業務

アメリカの大学において IR の大きな作業の一つはこの情報公開業務だといえる。別の見方をすれば、IR が大学のデータに関する公式スポークスパーソンの役割を担っているということである。ここでは、以下どのような情報公開業務があるのか、そのいくつかを述べていく。

Integrates Postsecondary Education Data Systems (IPEDS)

通称 IPEDS(アイペズ)。連邦政府に対する報告業務17で、連邦政府の奨学金プログラムに参加する大学は機関レベルのデータを毎年報告する義務がある。業界用語で、Title IV institutions という言い方があるが、それは連邦政府の奨学金プログラムに参加している大学のことを指す。連邦政府がどのように高等教育に関わるべきなのかを定めた Higher Education Act の第4章に奨学金に関するセクションがあり、そこからこの言葉は由来している。もしデータ報告を怠ったりデータ提出が遅れた場合、罰金、さらに最悪の場合は奨学金プログラムから除名されるという極めて厳しいペナルティが課されるため、近年のデータ収集率はほぼ 100%である。州立・私立問わず、ほとんど全ての大学がこの IPEDS にデータを報告している。 IPEDS が集めるデータは膨大であり、年3回(秋・冬・春)に分けて集められる。まず秋のデータ収集は、大学に関する基本情報(Institutional Characteristics)、 卒業に関するデータ(Completions)、 そして在籍学生数に関するデータ( 12-Month Enrollment)である。大学は9 月の最初から 10 月の中旬までの間にこれらのデータを提出しなければならない。データ提出の作業は全て Web 上で行われる。冬のデータ収集は大学の教職員に関するデータ(Employees by Assigned Position, Salaries, and Fall Staff)、 秋学期の在籍学生数に関するデータ(Fall Enrollment)、 そして前年度の財政に関するデータである(Finance)。12 月の最初から 2 月の最初にかけてこのデータは回収される。ただし、在籍学生数と財政に関しては春に提出しても構わない。春のデータ収集は、奨学金と卒業率に関するデータである。データ報告期間は 3 月の最初から 4 月の終わりである。このように年3回、計8つの分野にわたって行われる IPEDSへの報告業務だが、そのデータ総数は膨大であり、各大学の IRは IPEDS へのデータ報告に対して大きな時間が割かれるという現実がある。大学によっては IPEDS 専門の IR スタッフを雇っているところもあるくらいである。もっとも、大学によっては、毎年のことなので全体の業務を自動化してしまっているところが増えてきているが、それでも大きな業務の一つであることには変わりない。

話がそれるが、IPEDS に関して、National Center for Education Statistics (以下 NCES)というアメリカ教育省傘下の組織がデータ収集を行っているが、NCESは、IPEDS で集められたデータを私立州立問わず全てインターネット上で公開している。NCESはデータの積極的公開を推進してきており、現在では1984年以降集められた IPEDS のデータ全てインターネット上で誰でもダウンロードできるようになっている。IPEDS のデータが近年高等教育研究の発展に果たした貢献は計り知れない。日本の大学も学校基本調査など、いくつかの調査が行われてきているが、IPEDS のように、それらのデータをインターネット上で過去から遡って全て公開すべきだと思う。アメリカ連邦政府は、奨学金プログラムを盾にとって、各大学の情報公開を推し進めた。日本の場合、運営費交付金や私学助成金で多大な税金が高等教育に投入されているのであるから、それを受け取る対価として情報公開を推進していってもいいのではないか。データが公開されればされるほど、高等教育政策研究の質と量が増え、健全な政策議論の発展につながっていくと私は考える。

州政府に対する報告義務

アメリカの大学は、当然ながら州政府に対しても報告義務がある。基本的に高等教育は州が最終責任者的な役割を担っているので、大学は連邦政府以上に踏み込んだ報告をしなければならないのが一般的である。ただし、多くの州では、それはパブリックの大学のみに限られる。例外として、州の奨学金プログラムに参加したり州の助成金を受け取っている私立大学18は州への報告が義務付けられている。私の勤務しているテネシー州は、奨学金プログラムに参加している私立大学はデータ提出の義務がある。どのような報告義務があるかは、州によって大きく異なる。先述した MnSCU のように自動データ収集システムを保持しているところもあれば、テネシー州のように、秋、春、そして夏と年3回データ収集を行うケースもある。 テネシー州は、連邦政府とは違い、大学の機関データではなく、個人情報を各大学から収集する。このようなデータ収集を行っているのはテネシー州だけではなく、現時点ではアメリカ
50州のうち約40の州がこのような方法で個人情報を管理している19。テネシー州はその個人情報のデータ収集を 1994 年から始め、現在にまで至っている。各大学は学期が始まってから14日目の時点でのデータを各大学を管轄するシステムオフィス20に提出し、各システムオフィスはそれらの大学のファイルを集めた上で、州政府に提出するシステムを採用している。Enrollment File(在籍している学生に関するデータ)は年3回集められ、Completion File(卒業者に関するデータ)は年1回集められる。収集する主なデータは以下である。

Enrollment File (在籍している学生に関するデータ):
• 大学
• システム
• 学生の ID 番号(Social Security Number)
• 性別
• 誕生年
• 人種
• Resident Status21
• アメリカ国籍保持者(Yes or No)
• 出身地の Zip Code22
• 出身州
• 出身郡
• 学年
• 専攻
• 履修単位
• 学費徴収状況23
• 合計取得単位
• GPA 平均

Completion File(卒業に関するデータ)

• 大学
• システム
• 学生の ID 番号(Social Security Number)
• 第1専攻
• 第2専攻(もしあれば)
• 卒業年度
• 卒業学期
• 学位レベル

政府機関以外への報告業務

アメリカの大学は政府機関以外に対しても様々データ提供を行っている。具体例を挙げれば、ランキングで有名な US News や Peterson などといったメディア関係者へのデータ提供がその例として挙げられる。また別の例として、多くの大学は National Collegiate Athletic Association(以下 NCAA)にもデータ報告を行っている。NCAA は、大学スポーツ、特にスポーツ奨学生に関するルールなどを取り仕切る団体であり、NCAA に所属する大学に様々な条件を課しているが、その中の一つがデータ報告義務である。また、教員の全国協会である American Association of University Professors (AAUP)なども、教員の給与に関するデータを各大学から集めている。これら様々なデータ報告業務に対して、大学の窓口となっているのが IRであるということが一般的である。

データ公開の責任者を一元化するということは大学の信頼を守るという点でも必要である。例えば、昨年読売新聞が行った「『大学の実力』調査」などはその例を如実に物語っているといえる。調査結果が掲載された後、複数の大学がデータの修正を要求したり、もしくは大学側が誰がデータをメディアに伝えたのかわかっていないケースなどが報道されていたが24、これは大手の上場企業などではありえない行為であり、これらの大学は自らの情報すらも管理できない組織というレッテルを貼られてしまいかねない。今後ますますメディアをはじめとする大学外部からのデータ要求が増えてくると予想されるが、データに関する窓口は IR がその役割を担うのが最適である。

ところでアメリカにおいては、州立大学は税金で経営が成り立っているので、このようなデータ要求、特にメディアからの要求には答える義務が発生するが、私立大学はこのようなデータ要求に絶対こたえなければいけないという義務があるわけではない。しかし、現実的には多くの私立大学がメディアにデータを提供している。それには様々な理由が挙げられるが、一つはこれらのメディアが機関レベルのデータを集めているのであって個人情報を集めているわけではないこと、さらにメディアが集めている情報は既に IPEDS などで公開されているデータと重複している場合が多いということ、そしてデータを提供する見返りとしてこれらのメディア関係機関は魅力的なサービスを提供している(他の大学のデータにアクセスできるということやコンサルティングサービス等)ということが挙げられる。

1-4-2-B 研究業務

前節では、基本的なリポート業務の概要の紹介をしてきた。この節においては、IR の分析業務のもう一つの核である研究業務に焦点を当てていく。ここで私は、先述した Volkwein(2008)の論文を参考に、研究業務を3つに分類した。一つは、大学運営・戦略に直接関わる研究、次に、大学運営・戦略に間接的に関わる研究、そして最後にコンサルティングである。以下、一つ一つの業務に対して若干の説明を加えていきたい。

大学運営・戦略に直接関わる研究

このカテゴリーには無数の研究が存在するが、基本的には財務関連の分析がここに分類されるといえる。Volkwein が研究例として、学生数予測、収入予測などを挙げている。実際、多くの大学では、将来の出願者数、学生在籍者数、そして FTE の将来予測を行う。予算を決定する上で、将来の予測というのは必要不可欠な情報であり、将来の予測なしに、今後の戦略を立てることは不可能といっても過言ではない25,26。州によっては、州が大学に学生予測を毎年発表することを義務付けている場合もある(バージニア州27)。ただ予測の手法に関しては、研究者の価値観が大いに影響するため、様々な手法が用いられ、万人が受け入れる手法というのは確立されていない。

そしてもう一つの収入予測というのは、今後の大学の収入が学生数の変化に応じてどう変化していくのかをモデル化したものであり、学費をどこまで値上げすることができて、どうすれば収入を最大化できるかというシナリオを提供する分析である。一般的な例は、このモデルに奨学金の要因を組み込み、そしてどの学生にどれだけ奨学金を付与すれば大学の収入が最大化されるのかをはじき出し、それに応じて入試課が学生の入学の合否を判断するというパターンである。もちろん、この分析手法は高度な統計学の知識を必要とし、全ての IR がそのような分析ができるスキルを持っているとは限らないが、このような分析を行っている IR は数多く存在する。

一方、似たような研究に、Student Flow Model というものがある。これはアメリカの大学の特徴が大いに表れている研究だが、学生が卒業するまでにどのような経路をたどっていくのかというのをシュミレーションしたものである。日本と違い、アメリカの大学は学生が専攻を変更するのが容易である。従って、卒業するまでに専攻を何回も変更する、というのは少なからず存在するケースである。この専攻の変遷を理解することは二つの意味で重要である。一つは、学部に配分される予算の変化の予測ができるようになるということ28、そしてもう一つは学生の専攻変化のパターンを理解することによって、学部の長所及び短所、そして学生の需要がより深い次元で理解できるようになるという点である。例えばある学部から別の学部への流出が分析結果で発見されたとする。その結果、大学首脳陣としてはなぜそのような流出が起こっているのか、どのように食い止めればいいのか、それとも流出元の学部自体を閉鎖した方がいいのか、というような議論につながっていく。

Volkwein がその他挙げている例に、ベンチマーク研究というものがある。これには色々なパターンが存在するが、一言で言えば比較研究である。他の大学の同じ学部と比較研究を行ったり、大学内の異なる学部同士を様々な観点から比較したりすることによって、学部・学科もしくは大学の長所及び弱点を明らかにするという試みである。例としては Academic Program Review があげられる。これは、一言で言えば各学部・学科のプロフィールで、予算配分の際重視される業績評価リポートである。いわゆる学部学科の評価を行うリポートともいえる。多くの大学がこのようなリポートを毎年作成しているが、その内容は大学によって大きく異なる。それは各大学が異なる文化・ミッションを持っているからであり、また大学が重点を置いている政策などもまた変わってくるからである。例えば研究に力を入れている大学であれば、研究業績に秀でている学科により報酬が出るような評価システムを構築し、教育に力を入れている大学は教育実績を重視する評価システムとなる。

それでは、研究業績、教育業績をどのように評価するのかという話だが、結論から言うと、当然ながら一般化された方程式のようなものは存在しない。研究や教育の質といった主観的な要素の強いものを客観的にすべて数値化するというのはそもそも不可能な話である。かといって何もせずに放置しておくというのはアメリカでは起こりえない。そういった場合、アメリカの大学では代替変数、すなわち研究・教育業績と密接な関連を持っていると思われ、かつ数値
化できる指標を用いて評価を行う。次にでは一体どうやって使用する指標を決めるのかというと、それは話し合いである。関係者を集め、フィードバックを得た上で、合意の下どのような指標を用いるかを決定していく。自分の経験上、アメリカの高等教育界はこの合意を形成していく事が非常に上手である。アメリカの合意形成プロセスの特徴は、とにかく関係する人全ての声を集める、ということに尽きる。大体批判というのは、意思決定プロセスから除外された人たちから起こるというのをアメリカ高等教育関係者は熟知している。このような合意の下決められた評価システムは、その数値が業績の全てを表すわけではないという批判は常につきものであるものの、関係者からは一定の評価を得ることに成功しているといえる。

大学運営・戦略に間接的に関わる研究

次に、大学運営・戦略に間接的に関わる研究を私なりに定義してみると、それは大学キャンパス及び学生の理解度を深める研究と言える。日本では IR というと、経営に直接関係のある研究中心に従事するというイメージが強いようだが、IR の研究テーマはそれだけにとどまらない。いわば経営に直接影響を与える研究を支える研究というのがこの分類に当てはまるといえる。具体例の一つとしてアンケート調査などが挙げられ、在学生及び卒業生に対する満足度調査などはその筆頭に上げられるといえる。これらの調査結果が大学の経営に直接影響を与えるわけではないが、これらの結果を知っていると知らないとでは、経営に長期的にみて大きく影響を与えるという点で「間接的」な研究に分類した。

私事で恐縮だが、別の具体例として私の過去の仕事を紹介したい。かつて私が作り上げたものに、GPA 予測モデルというものがある。これは回帰分析を用いて、高校の成績をもとに大学1年終了時の GPA を予測するモデルだが、こういった類の研究は「間接的」な研究に含まれる。そもそもこのモデルを作った背景には、途中で退学してしまう学生が多いテネシー州の現状があった。その一番の理由は大学の授業についていくだけの学力レベルがないまま大学に入学してしまったということがあるのだが、当時はそれは仮説でしかなかった。すなわち、「おそらく高校時代の成績と大学の成績はリンクしているのであろう」という感覚的なレベルの理解であったものだが、このモデルによってその仮説をデータの上から証明し、また実際どれくらいの関連性があるのかをデータで示したのがこのツールといえる。この研究自体は直接的に経営とは接点を持たないが、高校の成績と大学の成績の関連性を感覚次元での理解でしかないのと、データに基づいた理解を比較した場合、政策議論において説得力を持つのは断然後者であり、政策決定の際に有力な情報を提供する。あくまでも「間接的」な研究の一例として、ここで紹介しておきたい。

その他の「大学運営・戦略に間接的に関わる研究」の例として、全国規模で行われる調査への参加などもあげられる。代表的な例は、インディアナ大学に事務所を置く、National Survey of Student Engagement(NSSE)29、デラウェア大学の IR 部門が行う Delaware Cost Study(デラウェア・スタディ)30などがある。NSSE は、学生の生活・活動状況を様々な観点から調査するアンケート調査であり、2000 年の発足以来、1200 以上の大学がこの調査に参加している31。このアンケート調査に参加した大学は、アンケート結果を他の大学や全国平均などと比較することができ、大学の政策決定に役立つ情報を得ることができる32。一方、デラウェア・スタディは、教育費用に関する研究であり、学部ごとに、学生一人当たり教育する上で実際にどれくらいの費用がかかっているのかを調査する。NSSE 同様、この調査に参加した大学は、他の大学や全国平均と比較研究することができるというメリットがある33。これらの全国調査の実施やデータ分析を担当するのは IR の役割であるところが多い。

コンサルティング業務 

コンサルティング業務は、各学部や学科、もしくは部署の運営のアドバイザー的な存在として関わっていくと言い換えることできる。例えば、私の勤務していたコミュニティカレッジでは、マーケティング部門があり、学生のリクルートを推進するにはどうしたらいいのかというアドバイスを求められ、現在の州政府の仕事では、ある大学から、学生アドバイザー制度の拡充を推進したいがその協力をしてほしい、などといったような要請を受けたことがある。IR が行うコンサルタントは二つの意味がある。一つは、組織内における IR の存在感の増加であり、もう一つは組織全体の教育である。IR が機能するために、組織内における IR の存在感というのは言うまでもなく非常に大事である。それはいわば発言力と比例している部分であり、組織内のプレゼンス、信頼感が増せばその分 IR の影響力が増す。従って、私は、こういう問い合わせにはできるだけ対応するように心がけてきた。

もう一つの組織の教育という意味において、これは、データ重視の文化を組織内に浸透させるという言葉に置き換えることができる。コンサルティング業務は、データの重要性を組織内に推進するという効果を生み出す。データを重視しなければならないのは首脳陣だけではない。各部署もそれぞれの責任・予算があり、その範囲内で効果的な運営を行う必要があり、必然的にデータ重視の運営が求められる。ミシガン大学はデータ管理の原則として、「データの価値は(中略)…データが広くそして適切に使用されることによって増加する。一方その価値は誤って使用、解釈、変化されたり、また不必要にアクセスを制限してしまうことによって減少する。」34と述べているが、コンサルティングは、「データが広くそして適切に使用」されるように現場のスタッフを「教育」するという効果がある。そしてこのデータ重視の文化が首脳陣だけでなく、組織全体に根付くようになれば、それは組織としてより効果的な運営へとつながっていく。

1-4-2-C 政策提言・実行

IR の業務サイクルの最後を担うのが政策提言・実行である。IR は研究の結果に基づいて、首脳陣に対して具体的な提言を行う。そして、提言を行うだけでなく、時にはその政策実行の舵をとる場合もある。例えば、IR が行った研究の結果、その政策の実行のための特別委員会を設置することになり、その委員会の運営中心者に IR が就任するというケースがある。以下は今の職場の例で、州政府の例だが、IR の政策実行のために担う役割を端的に示しており、キャンパスにおける IR の役割にも通じるところがあるので紹介したい。

その前に、テネシー州の高等教育を取り巻く環境を簡単に説明したい。テネシー州の高等教育の一番の課題として、卒業率の増加が挙げられる。現在の予算レベルで、いかにより多くの卒業生を輩出するかが現在の最も重要な高等教育政策課題であり、州政府として各大学をその課題により積極的に取り組んでいくように州の高等教育界の方向付けを行うということがアジェンダの中心となっている。このいわゆる「大学の生産性」の増加はテネシー州だけではなく、アメリカ全体の流れといえる。35

この流れを支援する形で、アメリカ・インディアナ州に本拠地を構える私立財団、ルミナ財団36 が、数年前、Making Opportunity Affordable(以下 MOA)37という巨大な助成金プログラムを発表した。これはすなわち、州政府を対象に、大学の質を保ちつつも高等教育の生産性(すなわち卒業率の増加)を高める取り組みを支援するプログラムである。これは複数年のプログラムであり、2回にわたって助成金受給者の選考が行われる。まず最初の一年は”Learning Year” として、応募者は州としての戦略計画を提出する。まずここで大半の州がふるい落とされ、このグラントに対して、37の州が応募し、11の州が選ばれた。この11の州には約 1500万円支給され、戦略計画の初期段階を実行する。そして、選考第2段階では、初期段階における目標達成状況を見て、さらに5つの州に絞り込まれる。この5つの州は次の4年間で最大2億円の助成額を受け取ることができる。現在は、第1選考がちょうど終了したところである。

テネシー州は第1選考を突破し、計画の実行段階に入っている。そしてこのプロセスで重要な役割を果たしてきたのが、THEC の IR である。THEC の IR はこの一連のプロセスで中心的な役割を担ってきた。まず関係者を集めた会合を開催し、それぞれから意見を吸い上げ、文書化し、プロポーザルを提出し、プロポーザルが選考を通過した後、そこに示された計画の実行者として直接指揮を執る。これはまさに IR が政策実行に関わる一つの例といえるのでここで紹介しておきたい。

1-4-2-D 第3者評価機関への報告(Accreditation)

以上、IRの業務を簡単に述べてきたが、ここで認証評価におけるIRの役割にも多少触れておきたい。日本で言う第3者認証評価に関連する業務は近年、アメリカのIRの業務で大きな比重を占めてきている。もちろん、キャンパスによってIRの関わり方は様々である。ある大学では、IRとは別に評価担当の部署があるところもあれば、IRの重要な役割の一つとなっているところもある。ただ一般的にIRがどのように認証評価プロセスに関わっているかに関しては、本稿の最初で紹介したVolkweinの4つの役割のうち、 「情報に関する責任者としてのIR」として認証評価作業に関わっているパターンが多いといえる。すなわち、認証評価を担当する責任者が別にいて、彼らをデータ提供という観点からサポートするという役割である。この評価作業におけるIRの関わり方に関しては、Dodd(2004)38に詳しく書かれているので、興味がある方はそちらを参照してほしい。

1-5 IR に必要なスキル-新しいタイプの労働者 

情報技術の急速な進展によって、現在の世界経済が知識基盤型の社会へとシフトしつつあることは否定できない事実である39。そして今まで歴史が示してきたように、経済体系が新しい形へとシフトする時、その中で新しいタイプの労働者が登場する。Drucker (1994)40は論文の中で、この新しいタイプの労働者を「Knowledge Worker」と呼び、次のように定義している。すなわち、この労働者たちは①「高いレベルの教育を受け、論理・分析力を獲得し応用する能力(”…a good deal of formal education and the ability to acquire and to apply theoretical and analytical knowledge”-筆者訳)」を持ち、②「常に学び続けるという習慣(”…a habit of continuous learning” -筆者訳)」を必要とする。

そして Drucker は更に、昔ながらの「Industrial Worker」は単純に経験を積めば「Knowledge Worker」になれるわけではないと断言し、この「Knowledge Worker」が今までのタイプとは全く異なる労働者群だと述べている。 そして、IR はこの Drucker のいう「Knowledge Worker」の二つの特徴をまさに体現している。これも昨夏日本に一時帰国したときの話だが、IR に関して多くの大学関係者の方が共通して言われていたことに、「IR ができる人がなかなかいない」ということがあった。この現象は、IRという仕事が特殊の知識と技能を要求するいわゆる知識ベース(knowledge base)の仕事であり、経済体系が知識産業中心の形態へと移行する中で出てきた新しいタイプの労働者ということを現実的な側面から裏付けている。まだまだ経済体系が移行期にある社会状況では、そういったスキルを保持する労働者を見つけ、雇うことは簡単なことではない。確かに、それはアメリカでも似たような状況であり、IR の労働市場は未だにどちらかといえば売り手市場といえる。それが IR に従事する人たちが教育のバックグラウンドからだけではなく、様々なバックグラウンドを持った人たちが集まる業界となっている大きな理由の一つではないのかと個人的には思う。

Volkwein(2008)41によれば、IR に従事する人たちの最終学位における専攻は、2003 年時点で以下のように分類されている。そしてほとんどが最低修士号を保持している。

社会科学: 38%
教育: 37%
理数系: 8%
ビジネス: 13%
人文: 5%

Terenzini (1999) 42は 、 IR に 必 要 な ス キ ル を 、 IR の 業 務 を 遂 行 す る た め の ス キ ル(Technical/Analytical Intelligence)、 組織の内部事情に対する理解度(Issues Intelligence)、大学を大局観に立って俯瞰する力(Contextual Intelligence)の3つに分類した。最初の「IRの業務を遂行するためのスキル」には、必要なソフトウェアを扱う能力、研究を行う上で必要な手法(Methodology)に長けていること、業界用語に対する理解、データベースに関する理解などが含まれる。次の、 「組織の内部事情に対する理解度」は、組織の意思決定プロセス、組織における人間関係、組織の抱える課題など、IRの関わる組織に関する理解度を指す。Terenziniによれば、最初の「IRの業務を遂行するためのスキル」は「組織の内部事情に対する理解度」があってこそ生かされるのであり、それなしでは「IRの業務を遂行するためのスキル」は「情報なきデータ、目的なきプロセス、問題意識のない分析、質問なき答え(24ページ)(data without information, processes without purposes, analyses without problems, and answers without questions)」に等しいと指摘している。そして最後の「大学を大局観に立って俯瞰する力」は、2番目のスキルである組織運営に関する理解より更に一歩踏み込んで、大学の歴史、ミッション、文化、社会の中における存在感、政府・企業との関係性などの理解をもち、将来に対する明確なビジョンを持つということに置き換えられる。2つのスキルだけだとIRは近視眼的な存在になってしまい、この大局観からの視点だけだと現実離れした存在になってしまう。Terenziniはこれらの3つの力がお互いに補完しあうことがIRにとって重要であり、これらのスキルを備えた人物、もしくは部署が今後必要とされるIRだと述べている。

今ここで述べた Terenzini の定義は、IR のスキルというものの全体像を理解する上では有用な定義だが、しかしその定義はまだまだ抽象的であり、具体的にはいったいどういう能力が必要なのかというところまで踏み込んでいない。そういった意味では、IR に関してあまり知識を持ち合わせていない人からすれば、まだまだイメージがわきづらいと思う。従って以下、IR 従事してきたものから見て、特に IR としての基礎的な能力である、「IR の業務を遂行するためのスキル」に関してもう少し具体的に述べていきたい。

私の経験上、まず真っ先に IR として必要となるスキルは Research Design を構築することができるということである。すなわち、全体感に立った上で研究課題を明らかにし、その研究の目標達成のためにどのような手法を用いるべきかを判断することができ、そしてリサーチのグランドデザインを描くことができるスキルである。アメリカの IR ディレクターの求人情報をみると、必要とされるスキルに関して、必ずリストにあがっているのがこの Research Design の
スキルである。ちなみに Research Design に関連して、IR はよくグラントプロポーザルなるものを書く。それは、外部資金を獲得するために、なぜその資金が必要なのかを詳細に説明する文書のことだが、IR に携わるものはこういった文書を書く力も重要な役割を果たす。

次に研究を遂行する上で様々な分析手法に精通していることが IR には求められる。一般的に、高等教育内における分析手法に関しては、大きく二つにそのアプローチを分けることができる。一つは Quantitative Analysis(定量分析)、そしてもう一つは Qualitative Analysis(定性分析)である。理想としては両方のスキルを兼ね備えていることが望ましいが、一般的には、IRは最初の定量分析のスキルが重要視されているといえる43,44。まれに両方のスキルを兼ね備えたパターンもあるが、それはまだまだ少数である。

定量分析というとすぐ推測統計とイコールと考えてしまいがちだが、私の定義では定量分析の力とはようするに数字を扱う力とイコールである。すなわち様々なデータを組み合わせ、多角的な観点から見直し、新たな真実を浮き彫りにする力、そのデータをいわゆるシンセサイズする力こそ定量分析にとって最も根本的かつ必要なスキルといえる。それは、ようするに記述統計を使いこなす力と言い換えることもできる。記述統計は足し算、引き算、掛け算、割り算さえできれば誰にでもできるので甘く見られがちなスキルかもしれないが、IR が行う多くの分析は記述統計でカバーできる。実際、記述統計しか使用していないものでも優れた研究というのは数多く存在する。以下の表はアメリカ・コミュニティカレッジの IR 関係者の分析手法の使用頻度を表したものだが、記述統計の重要さがここから見て取れる45。(表 12-1 参照)

What's IR Pic3

 

 

 

 

 

 

記述統計に加えて、更に IR の仕事の幅を広げるのは推測統計の知識である。具体的には、以下のような分析手法を知っていると、IR としての仕事の幅が広がるといえる46。IR の多くはこれらの統計に関する知識を大学院で身につける。IR に従事している人たちは多くが Ph.D を保持しており、大学院の授業でこれらの統計知識を身につけてくる。

• 重回帰分析
• ロジスティック回帰
• 分散分析
• パス解析
• 因子分析
• 階層線形モデル
• 構造方程式モデリング
• 多変量分散分析

ちなみに、上記の統計学の授業というのは、アメリカにおいては高等教育の大学院プログラム内で提供されることはまずほとんどない。これは私の例だが、ミネソタ大学の大学院で学んでいた時、私は統計の授業を数多く履修したが、私が受講した統計学の授業は全て、教育心理学か応用経済学の教授によって教えられていた。その一つの理由として、高等教育専攻の教授で高度な統計を教えることができる人が少ないという現状と、また他の学部の授業を利用することによって組織の無駄を省くという二つの理由が作用していたといえる。よく日本で、このような統計スキルを持っている人をどのように育てればよいのかという話を聞くが、それは今後大学院が担っていく役割だといえる。学部レベルでこのようなスキルを教授することには限界がある。

定性分析のスキルに関して、IRのコンテクストでは、それらは例えばインタビューや Focus Group、アンケートの自由回答の傾向を見つけるためのテキスト分析などがその代表的な手法としてあげられる47。大学院ではやはり、定性分析に関連した授業を提供しているところが数多くあるが、先に述べたように、IR の大多数は定量分析に特化した人が多いといえる。

Research Design、そして分析手法に加えて、同時に IR として重要になってくる能力は、関連ソフトウェアを使いこなすということである。ソフトウェアに長けているということは、IRの生命線であるといえる。具体的には、マイクロソフト・ワード、エクセル、アクセス、パワーポイント、そして統計ソフトウェアでいえば SPSSか SASが一般的に求められているといえる。以下の表 12-2 は、アメリカのコミュニティカレッジの IR を対象にそれぞれのソフトウェアに対する熟練度を調査した結果である48。それによれば、IR が一番長けているソフトウェアはエクセルであり、約8割の IR が上級レベルであると回答している。統計ソフトは、SPSS の方がSAS より IR には普及していることが表から見て取れる。

What's IR Pic4

 

 

 

 

 

なおマイクロソフト・アクセスに関して、個人的にこれは IR は必ず使いこなせなければいけないソフトウェアである。それはアクセスが大事であるというよりも、データベースに関する理解、特にリレーショナルデータベースに関して理解が IR の業務の遂行で重要であるということなのだが、その知識があるのとないのとでは、IR の仕事の業務遂行において天と地の差が出てくる。したがって必ずしもアクセスに精通していなくてもよく、MySQL や SQL サーバー、Oracle などのようなデータベース管理ソフトウェアを使いこなせれば(これらはアクセスより高度なスキルを要求するソフトだが)それで全く構わない。特に、IR をこれから立ち上げようという大学は、IR の部署にリレーショナルデータベースに関する知識を持ち合わせている人を置くことを強く勧める。研究もできてリレーショナルデータベースの知識も持ち合わせている人がいれば最適である。

ここまで IR に必要な能力の例をいくつかあげてきたが、これだけだと IR の仕事が全てデータで語られる低温な世界とイメージされてしまうかもしれない。しかし、IR というのはデータが扱えて統計ができればよいという単純な仕事ではない。それと同等、もしくはそれ以上に重要になってくるのはコミュニケーションスキルであり、ありふれた言葉を使えば「人格」が非常に大きな役割を果たす仕事である。それは先述した Terenzini のいうところの「組織の内部事情に対する理解度」そして「大学を大局観に立って俯瞰する力」へとつながってくる。現実においては、IR の仕事は特に IR 部門を率いるディレクターのレベルになると、研究に従事する時間は実際にはあまりないといっていい。他の部署や首脳陣、そして部下とのコミュニケー
ションなどに大半の時間を使い、その空いた時間で研究を行うといったようなタフな生活が求められる。データといっても、勝手に人と人との間を流れるわけではない。それを生かすも殺すも結局のところ、それを扱う人間の人格によって決まってくる。

1-6 私の体験:どのようにして私は IR の世界に入っていったか

ここで簡単に私がどのように IR の世界に入っていったのか、体験を簡単に述べさせていただきたい。自分のことを語るのは多少恥ずかしさが伴うが、IR とはどういうものなのかを直感的に読者に理解していただく上で、私の限られた体験を語るということはマイナスではないと考える。

私の IR としてのキャリアは5年半前に遡る。当時、ミネソタ大学の大学院において高等教育(修士課程)を専攻していた私は、今後のキャリアプランを考えていた。2003 年の夏休み、大学院生活も残すところあと一年、そろそろ就職活動を始めなければと考えていた私は、Chronicle of Higher Education49 の求人をパラパラめくっていた。当時アメリカに来て2年が過ぎようとしていたころであり、私はアメリカの大学で就職したいという思いが強くなってきたころである。そして大学で就職するならば、Institutional Researcher がいいと自分の中では思っていた。しかし求人情報を見ていて、私は「これはまずい」と思った。IR 関係の求人情報は沢山あるものの、今の私には到底できる仕事ではないと痛感させられたからである。アメリカの大学業界において、求人広告は専門的な仕事は特に、どのような人材を求めているのか、という記述が細かく明記されている。それはある意味、無理を承知で応募してくるような人を最初の時点で排除するシステムであり、採用する側の作業を軽減する効果がある。ともあれ、私が眺めていた IR 関係の求人広告はどれも以下のような条件がついていたのを覚えている。

• Research Designができる
• 統計の知識があり、SPSSもしくは SASが使える
• 修士号以上(分野:心理学、教育心理学、政治学、高等教育、公共政策等)
• SQL Server, Oracle, PeopleSoftなどのデータベースを扱ったことがある
• Microsoft Office (Word, Excel, PowerPoint, Access)に精通している
• IRとして1-3年以上の経験

この条件の中で一番私にとって痛かったのが最後の経験の部分である。統計は大学院の授業を通してある程度の知識はついていたし、SPSS も授業を通していて習っていたものの、IR としての経験は当然ながら全くなかった。さらに3番目の SQL Server, Oracle, PeopleSoft なんかにいたっては、その言葉の意味すら知らなかった。これでは就職どころではない、と暗澹たる思いに駆られたのを今でも覚えている。しかし、へこんでいるだけでは何も進まないので、私は対策を練ることにした。経験がないのならば今から経験をつむしかない、ということで私が取った作戦は、当時私が住んでいたミネソタ州ミネアポリス市近郊にある約25の大学にある全ての大学の IR に、インターンとして採用してほしいという E-mail を送るとことである。ポイントとしてはただでもいいから雇ってくれということである。そのうち一つの大学から返事が来て、給料はあげられないが採用してあげようということになった。それがミネアポリス市
にある、2年制のコミュニティカレッジである。そして 2003年の 9月から Unpaid Institutional Research Intern として、私は週 20 時間働き始めた。

当時のそのコミュニティカレッジの IR 部門は、Director と Research Analyst の二人で運営されていた。二人とも修士号を持っていたが、両方とも専攻は社会学であり、Director はこの職場に勤める前は企業で働いていて、Research Analyst は警察で犯罪者のデータ分析を行っていたということからもわかるように、高等教育のバックグラウンドはこのカレッジが初めてという人たちである。そして、この IR 部門は教務部門の管轄にあり、教務部門の副学長に報告をするという構造になっていた。週に一度、Cabinet Meeting というものがあり、そこでは学長と副学長が集まって議論を行うが、そこに IR Director も参加していた。大学の経営に関する会議にランクを飛び越えて関われるという特権が IR にはあり、キャリアとして IR の魅力とはそこにあった。

ともあれ、私の最初の出勤の日、これからどういう仕事をするかという話し合いが行われたのだが、最初に聞かれたのが、「Microsoft Access が使えるか?」ということであった。ほとんど使ったことはなかったが、ここは見栄をはってでも仕事ができることを証明しなければと息込んでいたわたしは、「もちろん」と答えた。じゃあこのリポートを作ってくれといわれ、内容は覚えていないが、いざ取り組み始めたが、全く何をやっていいかもわからなかった。結局、ボスも実は私が Access を全くわかってないことに早々に気づいたようで、このプロジェクトはやめておこうということになった。

最終的にこのコミュニティカレッジでは2年間働くことになるが(途中で給料ももらえるようにもなり)、一番私が学んだことは Access の使い方であるといっても過言ではない。Accessを学んだことによって、リレーショナルデータベースの理解が深まり、私の IR としての生産性は大きく増すことになった。リレーショナルデータベースを知ることはその後の私のキャリアにとって大いにプラスとなり、今後もそうなっていくと思う。もし今後 IR をキャリアにしていきたいという人がいるならば、リレーショナルデータベースの知識は必須であると思う。

1-7 アメリカにおける今後の IR の展開

今後のアメリカにおける IR の展開に関しては様々な意見がある。Volkwein(2008)は、組織としての IR を4つに分類した。

• Craft Structure (技術者組織)

リポート作業やデータ要求などにほとんどの時間を費やしている。少人数(1-2人)の IR によく見られる傾向。このケースの IR の場合、Ph.D を持っていない IR がほとんどである。IR の発展段階でいうと幼少期に当たる。

• Adhocracy(非官僚的組織)

IR の役割がいくつかの大きなカテゴリーに区別されているケース(例:リポート担当、政府報告担当等)。2-3人の IR 部署によく見られる傾向。ほとんどの研究活動は IR が所属している部門(例:教務部門、財政部門等)内の研究活動に制限されているケースが多い。IR の発展段階でいうと青年期に当たる。Ph.D 保持者の IR も少なからずいるが修士号保持者で長年の経験を持つ IR が多くを占める。

• Professional Bureaucracy(プロ官僚組織)

最低4人の IR がいる。最低一人は Ph.D 保持者であり、それに加えて10年以上の経験を持つスタッフが大抵のケース存在する。数人の基礎的な IR の業務をこなすスタッフに、高度な分析能力を必要とする研究に従事するスタッフがいる。いわゆる IR の理想に近い形態。

• Elaborate Profusion(分散型組織)

IR がキャンパス中にいくつも存在するパターン。多くの研究型大学に見られるパターン。それぞれの IR 活動の統制は中央で管理されていないケースが多い。

Volkwein は、IR は Craft Structure(技術者組織)から始まり、Adhocracy(非官僚的専門家組織)へと発展し、Professional Bureaucracy(プロ官僚組織)もしくは Elaborate Profusion(分散型組織)へと発展していくと述べている。別の見方として、Professional Bureaucracy(プロ官僚組織)とは、Elaborate Profusion(分散型組織)だが中央からの統制が取れているスタイルともいえる。そして Volkwein は Professional Bureaucracy(プロ官僚組織)が最も理想であり、IR として目指すべき方向であるとしている。

別の IR の発展モデルとして、データベースシステムの発展という観点から IR の発展を考えるという見方もある。単純に言えば会社の組織力・競争力がデータベースシステムの有効活用と比例して増加するという概念だが、最近ではこれはいわゆるビジネス・インテリジェンス(Business Intelligence-以下BI)システムの導入によって組織の経営手法が大きく変化していくという言葉にほぼ置き換えられている。このBIという言葉は元々ビジネスの世界で使われてきたが、近年では大学などのような非営利組織や政府などといった営利を目的としない組織にも応用され始めている。BIは近年、高等教育関係者の中でも注目を集め始め、「BIは(今後の高等教育の)将来のトレンドとなる」50、「BI技術は(データ重視の経営をする)プロセスにおいて重要な役割を果たす」51といったように、今後更に高等教育界に浸透していくと予想され、IR のあるべき形にも影響を与えていくと考えられる。データベースと IR は水魚の関係にあるが故に、データベースシステムが進化をしていけばそれに伴い IR も変化していく、というのがその IR 発展モデルの見方である。この発展モデルは一般的に高等教育の IT 分野の専門家たちを中心に聞かれる意見である。52

図 12-3 はそのデータベースシステムの発展過程をあらわしたモデルである。一番左の「リポート生産」とは、データベースシステムが年次報告書や基本的リポートを生産するためにしか使われていない、初期段階の構造であり、発展モデルの中では「出産前」と位置づけられている。次の段階は、「スプレッドマート」といわれるステップで、Eckerson(2006)53はこの状況を「組織にとって重要なデータが個人の PC やエクセルファイルなどに保存されているだけの状態(筆者訳)」と定義した。更に Eckerson は、この場合往々にして見られることが、これらの重要なデータが複数の個人によって、異なるタイミングで、異なるデータ元から手に入れたデータで、そして微妙に異なる手法で作り上げられているケースが多く、その混乱が組織の発展を阻害する要因になっていると述べている。その次の「データマート」、「データウェアハウス」はこのいわば「真実の混乱」を各部門ごとで徐々に統合し解決していくプロセスに当たる。これらの過程では、組織の中においてデータの定義が統合され、そして組織において重要なレポートなどが、個人の仕事ではなくてデータベースが自動的に行うようになる。その次の「エンタープライズ・データウェアハウス」と「アナリティックサービス」とは、一言で言えばデータマイニングや将来予測分析などといった、今までならば高度な分析能力を持った人間でなければできなかった分析をデータベースが行えるようになる、ということに集約されるといえよう。

もっとも、BIの普及に関してはアメリカの大学界においても未だ普及段階といえる。BIという言葉はビジネス界から高等教育界に持ち込まれた概念であり、今のところはBIという言葉だけが独り歩きしている感があり、一種の流行語のようになっていることも否定できない。正直どこまでの人がBIという意味をはっきりと理解しているのか、現段階では非常に少ないといわざるを得ない。私の意見では、BIシステムとは、多次元方データベース、いわゆるキューブのことを指していると理解している。すなわち、今まで2次元のリレーショナルデータベースの世界に収まっていたデータベースが多次元方のキューブへと発展することによって、分析作業を含めた様々な作業が可能になり、そのキューブによって可能となったデータベースの効用を「ビジネス・インテリジェンス」と総称しているに過ぎない。したがって、BIシステムを導入したからといって組織の効率性が自動的に一気に上がる、ということが起こるわけ
ではない。結局のところ、キューブという高度なデータベースを高等教育というコンテクストの中で使いこなせる人材がいなければ、BIシステムを導入しても組織に価値を生み出すことはできない。しかし、BIシステムに対する理解は今後高等教育業界で更に深まっていくことは間違いないといえるし、それを使いこなす大学が今度増えてくるのは必然的な流れであるといえる。

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今まで様々なアメリカの大学関係者と会ってきた中での感想だが、アメリカのほとんどの大学は2-4の段階に位置しているといえる。そしてこの枠組から自分の職場を分析すると、おそらく3のレベルに位置すると思う。例えばTHECでは重要なリポートはほぼ自動化されている。データベース管理者がそのようなリポートを生産するために必要なクエリ54を保存してあり、必要な時期になったらクエリを走らせて必要なデータを手に入れるというシステムが出来上がっている。また、リポートとは別に、THECのスタッフなどから頻繁に要求されるデータ(例:卒業率や歩留まり率)などは、データベースとリンクした WEB 上で常に更新されたデータが手に入るように構築され、誰がどのタイミングでアクセスしても、データが同じ定義で取得されるようになっており、「真実の複数化」現象を防いでいる。現時点では、まだこれらの取り組みは Department レベルなので、Department を超えた次元でこのような取り組みを今後行っていく必要があり、それが発展段階4のデータウェアハウスであり、その次の段階につながっていく。

Volkwein のモデルとビジネス・インテリジェンスの発展モデルは一見全く違うことを述べているようで、実は類似点が多い。Volkwein の主張は要するに、IR を彼らが本来果たす役割、すなわち分析研究に特化させるべきだということである。そして、BIシステムは IR の観点から見れば、IR がリポート業務などに労力を無駄に割くことがないように技術面から支援していくというシステムである。すなわち、Volkwein の理想とする IR の姿に近づいていく上でビジネス・インテリジェンス・システムが大きな役割を果たしていくと言い換えることができ、それが今後アメリカの IR が進んでいく方向性だと思われる。この変化がどのようなスピードで起こっていくか推測はできないが、テクノロジーの発達とともに今後十年ほどで IR の役割も現在の形から大きく変化していくのではないかと、今後も IR としてキャリアを積んでいこうと思っているものとしては、その前提に基づいて日々の業務を行っている。

1-8 提言-私が思うこと 

最後に、今後の日本における IR の展開に関して、私なりに思うことを述べていきたい。IRが今後日本の大学でも普及されていくことはほぼ間違いない流れだといえる。従ってここで大事なことは、どのように普及の方向付けを行い、どうやって IR を日本の高等教育に根付かせていくかという議論である。もちろん、私は現在アメリカに住んでおり、また日本の大学で働いたことはないので、日本の大学の内部事情にはそれほど精通していない。したがってここで私の述べることは、1万メートル上空から眺めたような、外部からの視点という形で理解していただければと思う。

1-8-1 人材の獲得

まず根本的な問題として、IR の業務を遂行できる人材の獲得・育成が最重要課題の一つである。IR という部署を作り上げたとしても、その仕事ができる人がいなければただのハコモノと化してしまう。アメリカの大学も IR の初期段階は教員が兼任で IR をやっていたが、おそらく日本も似たような形で発展をしていくのがコストという観点から考えても自然といえる。民間企業から IR の求めるスキルを持った人材を引っ張って来るという手もあるが、コストがかかる
上に現在の大学の給与体系を考えた時、そのパターンはゼロではないにしてもあまり起こりえない。また企業と大学の組織論理も大きく違うが故に、民間出身の IR が大学で成功するという保証もない。内部、おそらく教員の中から人材をみつけ、IR 部署とともに徐々に育てていく、そういう形が確実かつ現実的である。また、大学側も最初は IR を試行錯誤しながら運営していくことになるだろうし、その時点では IR の経験のない民間企業出身者にその運営を丸投げするのはリスクが大きすぎるといえる。アメリカから IR の専門家を雇って立ち上げをさせるという手もあるが、語学や文化の壁が大き過ぎるため、大学がそのような外国人スタッフを受け入れる環境が整っていない限り成功する可能性は現時点では低い。現時点では、認証評価に携わっている人たちが最も IR に近い役割を担っているので、大学首脳陣は認証評価の担当者が発展的に IR の役割を担っていくように方向付けを行っていくのが現在ではベストではないだろうか。

1-8-2 人材の育成

そして同時並行で、今後の IR を担っていく人材の育成を行っていかなければならない。それはキャンパスレベルではなく、日本の高等教育界全体の課題として、大学以外の組織、例えば全国協会や政府などが推進していく役割だといえる。アメリカにおいては、60 年代、IR が大学に設置されるようになって来たが、そこで人材育成に重要な役割を果たしたのが、American Council on Education (ACE), New England Board of Higher Education(NEBHE)、Southern Regional Education Board (SREB)、 Western Interstate Commission of Higher Education (WICHE) などといった高等教育関係の非営利組織だった55。これらの組織が、ワークショップなどの短期集中講座などを開催するなど、アメリカの大学の IR の初期段階における人材育成の中心的役割を担ってきた。そして60年代中頃に IR の全国協会が発足し、IR 同士の交流が活発に行われるようになった。日本においても、IR として最低限のスキルを身に付けることができるようなトレーニング機会を政府や協会団体などが提供していくことが必要である。

大学院で IR を育てるというのも一つの有効な手段である。現在アメリカにも IR を育成する大学院プログラムが幾つかの大学に存在するが、日本にも同じようなプログラムが一つくらいあってもいいのではないだろうか。もちろん、教室内のみのトレーニングでは限界があり、修士レベルでは IR として必要なスキルを全て網羅するのは難しいかもしれない。しかし、IR 部署におけるインターンシップなどを必修としたり、プログラム内容を充実させることによって、IR としての基礎的な力は身につけることはできる。また政府も、IR 育成の拠点として一つの大学を重点的に財政支援をしていってもいいのではないだろうか。例えば、IR を育成する大学院を支援する政府グラントを作り、各大学に計画書を提出させ、一番優れた計画を持っている大学を支援するといった手法をとることで、より良いプログラムが構築されるきっかけとなるかもしれない。

またトレーニングが必要なのは IR 関係者だけではない。IR の上司となる大学首脳陣も、どうやって IR を使いこなしていくのか、すなわちどうやってデータ重視の経営を行っていくのか、というトレーニングが必要である。私がかつて勤務していた SHEEO では、州政府のリーダーのためのカンファレンスや、ワークショップなどを開催し、リーダーシップのトレーニング、特にどうやってデータ重視の政策運営を行っていくかということを学ぶ機会を提供している。日本でも、全国協会などのような組織が中心となって大学の学長・副学長を対象の同様なワークショップなどを開催し、IR をどう使いこなしていけばよいのか、データ重視の経営とはどういうことなのかといったテーマのトレーニング機会を提供することは有意義だと思う。誰がその機会を提供するのかに関して、最初はアメリカから講師を招くなどして、徐々にトレーニングに対するノウハウを学び知識を日本国内に蓄積していくのも一つの手だと思われる。

1-8-3 大学におけるデータに関するルールの設定 

人材の不足とともにもう一つの喫緊の課題が、各大学のデータシステムおよびデータの扱いに関するルール改革である。例えば認証評価プロセスで、必要なデータがすぐ手に入らなくて作業が滞ってしまったという話は多くの大学に共通する悩みかもしれないが、それは IR がいないからそうなったというよりは、本質的には大学のデータシステム自体の欠陥、もしくはデータの扱いに関するルールの欠陥から来るものである。例えば、人事部がデータを部外に出すこ
とをためらったり、ある学部が学部に関するデータを学部外の「外部」に提出することを拒否したりなどということは、IR がいるいないの問題ではなく、データに関する扱いの学内のコンセンサスが取れていないという状況によって生じた問題といえる。IR とデータはいわば魚と水のような関係であり、データが自由に扱えるような環境になければ、IR は機能することはできない。IR 設置と同時に、大学首脳はデータを扱うインフラの技術的・法的整備を行う必要があ
る。

これに関連して、時折、日本からアメリカの IR の視察に研究者、大学関係者がアメリカを訪問することが近年多くなってきたが、IR がどのような業務を遂行しているのかということを調べると同時に、どのようなデータ・ポリシーを大学として持っているのか、さらにどのようにしてそのポリシーが大学のコンセンサスとなっていったか等を調査すると IR に関する理解が深まるのではないかと思う。

1-8-4 文部科学省が情報公開を推進する

IR の目的の一つはデータ重視の経営をキャンパス内に推進することである。しかしデータ重視の経営を今までしてこなかった大学が、ある日突然それができるようになるわけではない。意識の変化というものは一朝一夕にできるわけでもなく、意識が変化しても行動がなかなか伴わないのは、個人レベルで誰しもが経験していることである。個々の次元でさえそうなのだから、キャンパスレベルでの意識の変化が行動の変化につながるまで、簡単に移行することは難しい話である。

IR を日本に根付かせるために政府、すなわち文部科学省が果たすべき役割の一つは、高等教育界におけるデータ重視の経営を推進する環境を外側から整備していくことで、各大学内にデータ重視の経営方針を根付かせる手助けをしていくことにある。そのための一つの手段は、文部科学省自身が情報公開の推進をしていくことである。具体的には、学校基本調査やその他大学から毎年集めている機関レベルのデータを全てインターネット上で公開することである。政府からより多くのデータが一般公開されればされるほど、高等教育研究は発展していき、そしてその研究の積み重ねが、新たな研究を呼び、その過程を繰り返す中で各大学にデータ重視の文化が徐々に構築されていくだろう。いずれデータに基づいた経営というのが高等教育界の常識となっていかなければならないが、その中で文部科学省が果たす役割は大きい。

1-8-5 他の大学とのデータ交換を推進

これは今すぐという話ではないが、IR が設置された後、他大学、特にライバル校とみなされるような大学とのデータ交換を IR が中心となって積極的に推進していくべきである。アメリカにおいて、大学間のデータの共有作業は頻繁に行われている。例えば、代表的なアメリカの研究型大学によって構成される Associations for American Universities56(以下 AAU)は、メンバー大学内でのデータ交換を推進し、各大学からデータを集め、そのデータをメンバー内で共有するというシステムを構築した57。仮にそのような第3者組織がいない場合でも、独自に大学間でデータ交換の協定を結んだりする場合もある。「自分たちのデータをライバル校に渡すなんてもってのほか」、というように思われる方が読者の中にはいるかもしれないが、データを渡すことによって発生するリスク(例えば、ライバル校に出し抜かれる、差をつけられる)よりも、他校のデータを受け取ることによって得る利益の方が単純に多いのでアメリカの大学はデータ交換を行っている。また、データを共有することによって生じる不利益を最小限にとどめるようにルールを取り決めれば(例:扱うデータの種類、データは外部には公表しない、研究目的以外には使用しない等)これらのリスクを減らすことはいくらでも可能である。他大学と比較することによって初めて、自らの大学の現状が見えてくるのである。IR が中心となってデータ交換を積極的に進めていくことを強く薦める。

1-8-6 IR による全国調査の実施

アメリカには、先述した NSSE や Delaware Cost Study など、様々な全国規模の調査が存在する。特に Delaware Cost Study は、デラウェア大学の IR 部が作り上げた全国調査で、多くの大学がその調査に参加している。IR がこのような全国調査を行うメリットが3点ある。一つは、全国調査を行うことによって IR 部署が独自の収入を上げることができる、次にこの調査結果は自らの大学の運営に大いに役立つ情報を提供することができる、最後にこの調査結果が高等教育政策に与える影響が大きいという3つの点である。

アメリカの全国調査の参加費は多くが有料である58にも関わらず、多くの大学が参加する理由としては、様々なサービスがこの調査に参加するに当たって付随するからである。Delaware Cost Study では、参加大学には全国平均との比較、また同じタイプの大学との比較等といった様々な角度からの分析結果が送られてくるといったサービスを提供し、また各大学のニーズにこたえたサービス等も行っている。いわば一種のコンサルティング業務である。そしてこのコスト研究の結果、デラウェア大学の IR 部署は Cost Study における一つの権威となっている。さらにこの調査によって集められるデータは自らの大学の運営に少なくない影響を与えることができる。また、こういった全国調査というのは高等教育政策という観点から見ても非常に利用価値の高いデータを提供するが故に、政府系グラントも通りやすいというメリットがある。

したがって、日本の場合、文部科学省のグラントプログラムなどを通して全国調査プロジェクトの立ち上げを行い、その後の運営は参加費用で賄っていくという収益モデルを作り上る形で、IR が継続性のある全国調査プロジェクトを進めていけば、それは高等教育研究の発展につながっていくと考えられる。

2. 終わりに

ここまでアメリカの IR に関して述べてきたが、冒頭に述べた様に、ここで書き記されたものがアメリカの IR の現状を全て網羅しているわけではなく、IR の業務内容やミッションの多様性を考えた時、IR を説明しきることはおそらく誰にとっても達成不可能なゴールだといえる。従って、IR を数年間にわたって経験してきたものから見た IR ということで、読者にとっては一つの視点という角度で理解していただければと思う。本文が日本の今後の IR のあり方に関す
る議論に貢献できればそれで目的が達成されたといえる。

最後に、もう一つ私の意見を述べてこのエッセイを締めくくりたい。経済史的観点で IR というものを考えた時、IR は一つの大きな挑戦状を日本の高等教育界に叩きつけている。それは、今後、日本の高等教育界が 21 世紀の社会発展に必要な人材を送り出すことができるのかということである。現在、世界経済全体が、工業・製造業中心の社会(Industrial-based society)から知識基盤型(Knowledge-based society)へとシフトしつつある。そして、IR はその新しい経済体系の中で活躍する新しいタイプの、Drucker のいうところの「Knowledge Worker」にカテゴライズされる労働者である。彼の予測が正しければ、今後このような労働者は経済体系がより知識基盤型へとシフトする中で増え続け、そして彼はこの新しい経済体系を人材育成という点から支えなければならないのが高等教育機関と主張している。この説を別の表現に置き換えれば、高等教育機関がそのような人材を輩出できるかどうかでその地域の発展パターンが変わってくるということになる。

その枠組の中で IR というものを考えた時、IR を日本の高等教育に根付かせることができるかどうかという課題は、実は大きな意味では高等教育が IR に代表されるような知識型社会で活躍する人材を今後育てることのできる実力が伴っているのかどうかという、21 世紀社会における高等教育の根本的な課題を投げかけているといえる。そしてその課題に対する答えは高等教育の将来だけでなく、日本経済の今後にも大きな示唆を提供する。日本経済が今後知識基盤社会へとシフトしていくことができるのか、それはひとえに日本の高等教育の双肩にかかっている。そういった意味で、日本の高等教育が果たして21世紀の日本を支えていく上での実力が備わっているかどうかが、現在皮肉にも IR という自らの従業員によって試されている。それこそが、IR が現在の日本の高等教育界に投げかけている根本的なメッセージのような気がしてならない。

注:

1.アメリカ中西部12州の政府が共同出資して設立した政府系高等教育シンクタンク。政策分析のほか、コスト削減プロジェクト、地域内の学生・教員交流などを推進する組織。

2.アメリカ50州政府の高等教育省の全国協会

3.テネシー州政府高等教育省

4.出典:Middaugh, M. F. (1990). The Nature and Scope of Institutional Research. New Directions for Institutional Research. No. 66. Summer, 1990.

5.出典:Volkwein, J., F. The Foundations and Evolution of Institutional Research. New Directions for Higher Education, no. 141. Spring 2008.

6.出典:Peterson, M.W. (1999). The Role of Institutional Research: From Improvement to Redesign. New Directions for Institutional Research. No. 104. Winter, 1990.

7.出典:Volkwein, F. (1999). The Four Faces of Institutional Research. New Directions for Institutional Research. No. 104. Winter, 1999.

8.情報を操作して人々の心理を操る専門家のこと

9.P18

10.出典:Muffo, J.A.(1999). A Comparison of Findings from Regional Studies of Institutional Research Offices. New Directions for Institutional Research. No. 104. Winter, 1990.

11.出典:Peterson, M.W. (1999). The Role of Institutional Research: From Improvement to Redesign. New Directions for Institutional Research. No. 104. Winter, 1990.

12.出典:Volkwein, J., F. The Foundations and Evolution of Institutional Research. New Directions for Higher Education, no. 141. Spring 2008.

13.Levy, G.,D.(2008). A Beginner’s Guide to Integrating Human Resources Faculty Data and Cost Data. New Directions for Institutional Research. No. 140. Winter, 2008.

14.読売新聞 2008 年 7 月 10 日「『大学の実力』初調査…一覧で見る学習支援策、退学率」

15.読売新聞 2008 年 7 月 29 日「[解説]全入時代の大学評価 「学生の面倒見」基準に情報公開の姿勢重要

16.U.S. News “How We Calculate the Rankings”  http://www.usnews.com/articles/education/best-colleges/2008/08/21/how-we-calculate-the-rankings.html?PageNr=2

17.IPEDS 以外で連邦政府に対する報告業務として、National Science Foundation(通称 NSF)があげられる。NSF は研究に関するデータを各大学から毎年集めている。

18.2005年時点で、15の州で私立大学が州政府から助成金を受け取っている。出典:State Higher Education Finance Study FY 2005 http://www.sheeo.org/finance/shef_fy05_full.pdf

19. 出典:Ewell,P. & Boeke, M. Critical Connections: Linking States’ Unit Record Systems to Track Student Progress. National Center for Higher Education Management Systems. http://www.nchems.org/pubs/detail.php?id=70

20.テネシー州には、22のパブリック大学があり、2つのシステム、University of Tennessee System とTennessee Board of Regents の管轄下におかれている。

21. どの州の州民として登録されているかというデータ 

22. 日本で言う郵便番号にあたる

23.履修した単位に対して学費が支払われているかどうかを示したデータ

24. 読売新聞「大学の実力」調査反響「自己評価」の甘さ 批判.2008年8月5日.  http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20080805-OYT8T00197.htm

25.Healey, M.T. and Brown, D.J. (1978). “Forecasting University Enrollments by Ratio Smoothing.” Higher Education. Vol.7, No.4, November 1978. pp.417-429

26.Rumpf, D.L., Coelen, S.P., and Creran, F.J. (1987) “Estimating post-secondary student flow with limited data.” Research in Higher Education. Vo. 27, No.1, March 1987. pp.39-50.

27.http://research.schev.edu/enrollment/projections/

28.通常、大学は各学部に履修学生の人数によって予算の配分を決定することが多いという背景がある。

29.http://nsse.iub.edu/index.cfm

30.http://www.udel.edu/IR/cost/

31.http://nsse.iub.edu/html/quick_facts.cfm

32. NSSE は4年制大学が対象であり、2年制のコミュニティカレッジには Community College Survey of Student Engagement(CCSSE)という調査研究が行われている。http://www.ccsse.org/

33.Delaware Study は4年制大学が対象であり、コミュニティカレッジを対象にした同様の研究に、Kansas Study というのがある。http://www.kansasstudy.org/

34.http://www.mais.umich.edu/access/download/daguide_march2004.pdf

35.Making Opportunity Affordable: http://www.makingopportunityaffordable.org/page/opportunity-grant-program/learning-year

36.http://www.luminafoundation.org/

37.MOA に関してより詳しい情報は http://www.makingopportunityaffordable.org/

38. 出典:Dodd, A.H. (2004). Accreditation as a Catalyst for Institutional Effectiveness. New Directions for Institutional Research. Volume 2004 Issue 123. pp. 13-25

39.出典:Organization for Economic Co-operation and Development (OECD).(1996). The Knowledge-based Economy. http://www.oecd.org/dataoecd/51/8/1913021.pdf

40.出典:Drucker, P.F.(1994). The Age of Social Transformation. The Atlantic Monthly. November, 1994. http://www.theatlantic.com/politics/ecbig/soctrans.htm

41.出典:Volkwein, J., F. The Foundations and Evolution of Institutional Research. New Directions for Higher Education, no. 141. Spring 2008.

42.出典:Terenzini, P.T. (1999). On the Nature of Institutional Research and the Knowledge and Skills It Requires. New Directions for Institutional Research. No. 104. Winter, 1999.

43.Harper,S.R. and Museus, S.D. (2007). Editor’s Note. New Directions for Institutional Research. No. 136. Winter, 2007

44.Harper, S.R., and Kuh, G.D. (2007). Myths and Misconceptions about Using Qualitative Methods in Assessment. New Directions for Institutional Research. No. 136. Winter, 2007

45.出典:Swing, R. (2008). Key Note Speech presented at the Tennessee Association for Institutional Research. Nashville, TN. 非公開資料

46. 参考:Association for Institutional Research. (2005). Applications of Intermediate/Advanced Statistics in Institutional Research.

47.Van Note Chism, N. and Banta, T.W. (2007). Enhancing institutional assessment efforts through qualitative method. New Directions for Institutional Research. No. 136. Winter, 2007

48.出典:Swing, R. (2008). Key Note Speech presented at the Tennessee Association for Institutional Research. Nashville, TN. 非公開資料

49.アメリカの大学業界に焦点を絞った新聞。週一回刊行。http://chronicle.com/

50.Angelo, J.M. (2008). Business Intelligence: A new technology can analyze data at amazing speeds. So why is higher ed slow to adopt?. University Business. January, 2008. http://www.universitybusiness.com/viewarticle.aspx?articleid=659 (筆者訳)

51.Webster, J.W. (2006). Four Steps to Bridging the Business Intelligence Gap in Higher Education. Campus Technology. March, 2006.
http://campustechnology.com/Articles/2006/03/Four-Steps-to-Bridging-the-Business-Intelligence-Gap-in-Higher-Education.aspx (筆者訳)

52.この見方を強く推進しているグループに、Higher Education Data Warehousing Forum というグループがある。これは近年結成された、大学のデータベース発達・管理に携わる IT の専門家と、IR によって形
成されているグループで、年に一度集会を開き、大学のデータベース管理政策・方法等広く意見交換を行っている。http://www.sunysb.edu/offIRes/hedw/

53.Eckerson, Wayne. Are You Stuck In BI Adolescence? The Data Administration Newsletter. http://www.tdan.com/view-articles/5027

54.データベース管理システムに対する処理要求(問い合わせ)を文字列として表したもの。(出典:IT用語辞典 http://e-words.jp/w/E382AFE382A8E383AAE383BC.html)

55.出典:Peterson, M.W. (1999). The Role of Institutional Research: From Improvement to Redesign. New Directions for Institutional Research. No.104. Winter, 1999

56.1900年に結成された、私立・州立研究型大学の全国協会。アメリカ60の大学、カナダからは2大学がメンバーとして所属している。どの大学でも所属できるわけではなく、現在のメンバーからの推薦が
協会のメンバーになるためには必要である。http://www.aau.edu/

57.AAU のデータシェアに関する文書: http://www.pb.uillinois.edu/AAUDE/documents/brochure20060203.pdf

58.詳しい料金体系に関してはこちらを参照:http://www.udel.edu/IR/cost/fee_schedule.html